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Channel: 建築エコノミスト 森山高至「土建国防論Blog」Powered by Ameba
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新型コロナウィルスにおける建築的考察⑯

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新型コロナウィルスの院内感染予防のために、「結核に学ぼう」の続きです。複十字シール運動 公益財団法人 結核予防会 結核研究所の中島由槻先生の論文、「結核院内感染対策 特に施設面について」を読む、です。 結核院内感染対策<1> 特に施設面について院内感染対策<2> 特に施設面について まず、しょっぱなにこう書いてありますね。結核は排菌患者の咳嗽により空気中に飛散した結核菌飛沫核を吸い込むことにより感染する。ゆえにその感染を防止するには、主として施設面で以下の対策が勧められている。1.空気中への結核菌飛沫の飛散の抑制このためには患者の準高性能マスクの着用、咳嗽時ティッシュペーパーで口を覆う等の励行、不要な咳嗽誘発処置、気管支鏡検査等を極力控えるなどの配慮が必要である。2.汚染された室内空気の漏出の防止と浄化前者のためには、室内空気の相対的な陰圧化とできれば前室の設置、出入口の気密化で対処する。後者の手段としては、新鮮外気との換気回数の増加、HEPAフィルターを内蔵した循環式空気浄化装置の設置、紫外線照射装置等があり、これらの組み合わせで結核菌飛沫核に汚染された空気の浄化は達成できる。3.肺への結核菌飛沫核の吸入防止医療現場における実用性を考慮すると、現在では飛沫核の通過を阻止しうる高性能マスクの着用を個々の医療従事者が徹底するしかない。この場合、マスクの顔面への密着性の確認は極めて重要である。 1.は患者さんが他人にうつさないように、マスクをする。3.も患者さんからうつされないように、マスクをする。そのときのマスクはN95マスク以上の性能でなければいけません。2.についての詳細を紹介すると、空気中の結核菌飛沫核を除去する1)室内における結核菌飛沫核の浮遊する空気の、同一建物内の室外(以下室外)への拡散を防ぐ この目的の達成には、室外への連絡路の可及的な遮断と、室内気圧の相対的な陰圧化が絶対条件である。前者については連絡路、出入口の扉に気密性をもたせること、不必要な室内への出入りはしないこと、扉の開放時間を極力短くすることが求められる。相対的に陽圧の前室を設置できれば理想的である。陰圧化は、換気における給排気量に差をつけることで可能であるが、この場合、室内外気の圧差は-2cmH(2)O程度のごくわずかなものである。2)室内の十分な換気 もし新鮮な空気のみで室内の換気がなされた場合、室内にまんべんなく飛散した汚染飛沫核の90、99、99.9%が除去される時間は、理論上では1時間6回の換気ではそれぞれ23、46、69分であり、1時間12回の換気ではそれぞれ12、23、35分であるとされている。ただしこの値は菌が均等に分布し、かつ換気条件を理想的に設定した場合であり、室の構造、給排気口の位置、室内備品の状況等でより延長し、実際の時間は上記の理論値にその室固有のmixing facterをかける必要があるとされている。また汚染飛沫核の飛散が繰り返しまたは継続的に生じた場合は、この理論値では対処しえない。一方、人が室内にいる場合の快適な換気条件は、居室者1人当たり1分間に約0.42m(3)から1m(3)の換気であり、容積が5×3×2.5mの1人用個室であれば1時間に2回の空気の入れ換えで、4人部屋であれば1時間に3回で十分ということになり、居住性、熱効率の観点からは、換気回数をただ増やせばよいということにはならない。さらに結核菌飛沫核のごとき微粒子は、空気中においてブラウン運動をしており、かつ単位空気量当たりの濃度も薄く、その分布は決して均一ではないので、その室内の容積と同量の空気の給排気を行っても1回当たり63%の飛沫核しか除去されないとも言われている。 ところで排菌患者と同室の空気を吸った未感染者の何%に感染を生じせしめるかという結核菌飛沫核の量(感染単位)を、同じく空気感染をする麻疹の集団感染の分析から導入した理諭式に当てはめて計算し、換気量と未感染者の感染率との関係をみると、低換気量領域では換気量を増やすことにより感染率の減少も大であるが(居室者1人当たりの換気量を1分間に約0.42m(3)から1m(3)に増加することにより、感染率を50%減少せしめる)、高換気領域では換気量を増加しても感染率を有効に減少させられないとされている(図1)2)3)。さらに空気中に飛散した感染単位が多ければ多いほど(結核菌量が多ければ多いほど)、換気のみでは感染率の減少が得られにくくなっている(図2)3)。 以上、結核菌飛沫核の除去の目的には、換気条件のみでは不十分であると考えるべきだろう。現実的には、居住性、熱効率などを考慮して、完全な外気(または汚染されていない空気)の交換は1時間6回程度とし、空気浄化のために補助的な手段を加えるべきであると思われる。 非常に重要な示唆があります。どういう内容かというと、部屋の空気が全部入れ替わることを換気回数といいますが、たとえば、4.5畳くらいの部屋だと空気の量は20立米ほどです。その部屋の中に浮遊する結核菌を90%以上にまでなくすのに必要な時間を、部屋の空気総入れ替え回数との相関で示したものです。この表によれば1時間あたり6回以上入れ替わっていないと減らせないです。 普通のオフィス設計では1時間あたり0.5回というのが目安なんですが、そんな回数ではウィルスはまったく減らせないことがわかりますね。 上の表で1時間あたりの換気回数が15回なら、99.9%の菌をなくすことができる時間は28分ということです。これはCDCのガイドラインにも一致していますね。 1時間あたり換気回数が15回っていわれても多いのか少ないのか、いきなり数字を言われてもわからないと思いますが、実は1時間あたり15回の換気回数というのは、一般的な住宅におけるトイレとか浴室の換気目安なのです。 だから、イメージとしては、トイレに入った後や、お風呂やシャワーを使ってるときに換気扇を使っているでしょう?その状態で30分ほどで菌はほとんどなくなっていたんです。 むしろ、付けっぱなしで30分で空気中の菌は排出されていくということです。ただし、家全体ではありません、お風呂やトイレの水回りの小さな空間においては10~15回の換気量が発揮されているということです。 4.5畳の部屋を1時間あたり15回換気する空気の量は、20立方メートル×15回だから、300立法メートルということになります。それだけの換気能力をもった換気扇というのは家庭用キッチンのレンジフードよりも小さい、この写真に示した程度の大きさです。換気能力として、これでいいのであれば、そんなに難しいことではない。 実は、中華料理やとんかつ屋さんなどの厨房で大型換気扇が動いているような空間では、1時間あたり30回以上換気されています。 患者さんを収容する病室であればHEPAフィルター付きの、病院用空気清浄機 ACE-5000(簡易陰圧装置)というものもあります。 荏原実業株式会社 計測器・医療本部 医療環境部 普通病室であっても、空気を吸い出して陰圧化することができる装置です。装置の中にHEPAフィルターを通してウィルスを除去しています。 公益財団法人 結核予防会 結核研究所の中島由槻先生の論文、「結核院内感染対策 特に施設面について」の2の方でも病室について言及してありまして、新築の場合と既存施設を改造するときとに分けてあるのも秀逸です。なぜなら、患者さんを長期に収容している病院の性格上、いきなり全部建て替えるというのは難しく、まったく新しい敷地に移転するのでなければ、病院は居ながら建て替えとか増築の繰り返しになることが多いからです。 院内感染対策<2> 特に施設面について 1.新たに施設を作る場合1)病室 室内の陰圧を維持し空気が室外へ漏れないようにするために、出入口、窓などをできるだけ気密性の保てる構造にする。出入口には適当な広さの(ストレッチャーでの患者移送が可能な程度で奥行きは約1mくらいでよい)陽圧の前室を設けられれば理想的である。もし場所やコストの点から前室を置けない場合は、出入口のドアは開く動作中もドア内外の圧差が保たれ、かつ外からうちへの気流が維持されやすい引き戸にすべきである。 給排気口の位置としては、可及的に出入口に近い部分から患者ベッドの頭部に近いところへ、一定の方向へ気流が流れるように設置する。換気能力は1時間に12回程度の室内気の入れ替えができるシステムとするが、熱効率を考え新鮮空気の取り入れは1時間に4回分とし、残りはHEPAフィルターを排気ダクト内に設置した循環換気システムとする。2)急患室、処置室、気管支鏡室等 排菌患者の一時的収容場所である急患室、処置室、気管支鏡室などでは、居住性、熱効率等は病室ほど考慮しなくてもよい。これらは室の性格上人の出入りが激しく、常時陰圧を保つのが困難であるが、汚染された空気が極力室外へ漏出しないよう出入口は密閉構造にする。換気は室内の空気の流れが一定になるように給排気口を設置し、排気は屋外への単独排気とする。3)細菌検査室、病理解剖室 結核菌を扱う可能性のある細菌検査室には、屋外排気のクラスⅡB型安全キャビネットの設置は必須である。検体の処理はすべて安全キャビネット内で行われなければならない。2.既存構造を改築する場合 排菌患者が常時居室する病室は、理想的には「1.」で述べたものと同じ構造にできればよいが、室内を陰圧にしかつ排気ダクト内にHEPAフィルターを組み込んだ循環システムを、既存の構造に組み込むのは困難な場合が多い。 そこで最低限必要なことは、①室の気密性をできるだけ保てるようにする、②換気システムは1時間に6回程度(そのうち2回分は屋外気を取り入れる)の換気ができるものとし、室内気は単独で屋外に排気されるか、中央換気システムに循環せざるをえない場合は室からの排気ダクト内にHEPAフィルター(できれば紫外線ユニットも)を設置する、 ③室内の天井または壁の上部にHEPAフィルター内蔵の循環式室内浄化ユニットを設置する、④さらに天井吊り下げ式紫外線ユニットを追加してもよい。これらの処置によって結核菌の浮遊飛沫核はかなり除去されるはずである。 3.結核病棟のない一般的医療機関、保健所における具体策 まず自分の医療機関に年間どのくらいの結核患者が訪れるか、リスクアセスメントをする必要がある。それによって月々の結核患者を扱う数が分かり、どの程度の対策を要するか予測が可能である。しかしながら現在排菌陽性結核患者は年間約1万8,000人であり、地域差を考慮したとしても一般的医療機関であれば、多くても月に数例の排菌患者に遭遇する程度であろう。そしてそれらの患者の大部分は、結核と診断された段階で直ちに隔離施設へ転送または収容される。1)結核病棟と一般病棟境界部の管理 結核病棟と一般病棟境界部は、結核病棟が建物として全く独立してあれば別として、結核病棟の空気が一般病棟に流れ込まないなんらかの対策が必要である。しかしながら結核病棟全体を陰圧化することは不可能なので、結核病棟の通常の出入口を1カ所にして、一般病棟との境界部のそこに陰圧の前室を設けることが勧められる。もちろん、結核病棟の換気は独立排気である。 2)感染性患者の収容についてた空気浄化対策のなされた室内に収容し、患者および職員もそれぞれ必要なマスクを装着して対処する。その間できるだけ患者が室外へ出るのを防ぐために、収容する室内にはトイレ、シャワー、テレビ、電話等、患者のアメニティを考慮した配慮が必要である。そして感染性がほぼ消失したと思われる時点で結核病棟内の一般病室に移せばよい。続きをみる

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