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Channel: 建築エコノミスト 森山高至「土建国防論Blog」Powered by Ameba
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新型コロナウィルスにおける建築的考察⑧

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何千年も前から、「病気」と意識し始めてからも、何百年以上もの間苦しんできた感染症が、ほぼ制圧されて50年。

病気の原因の細菌やウィルス、そららのワクチンが次々と開発されたり、増殖を抑える薬品が開発されたりした結果、

予防接種を受けさえすれば、病院に行きさえすれば、普通にしていても、そうした感染症に罹ることがなくなった。

 

100年前の医師や科学者たちの研究と努力によって、ほとんどの病が克服されたわけです。

だから、医者も患者も大安心して病院に滞在するようになりました。

病気じゃなくても病院に行くようになった。

 

健康管理のためとか、地域のコミュニティとして医療機関が位置づけられていたり、

病院建築は危険な場所ではなくなってたんですね。

 

だから、私が建築家として独立後に初めて手掛けた建築設計は、病院だったのですが、
院長先生のお考えもあって、健康な人も気軽に立ち寄れる地域のコミュニティ空間となるように、

診療スペースよりも待合スペースの方が広い、リハビリをおこなったり、食事制限のためのお料理教室も開催できるような大空間を設えて、
いわばその後の介護保険法によるデイケアセンターの先取りみたいなクリニックにしてました。
 

 

一時期、医療機関に治療や診察の必要ない高齢者の方々が集まってしまう問題が世間で語られてましたが、

この病院では、そういう方々もどんどん来ていい、というコンセプトだったんです。

 

それぐらい、医療機関は安全なところになっていったんです。

このクリニックの設計をきっかけとして、設計事務所を独立開業して以降、病院設計の仕事をずいぶん頼まれまして、

大型の100床以上の基幹病院から、地域の診療所やリハビリ施設まで100件以上の医療機関の設計やってますが、

病院は、地域に開かれたものとすべし…が、この30年の大きな流れです。

 

 

本日、こんなニュースがありました。
 

新型コロナ以外の患者6%陽性 地域の状況反映か 慶応大学病院 NHKニュース4月23日
 

東京の慶応大学病院が今月、新型コロナウイルス以外の患者67人に対して、感染しているかどうか調べる検査を行ったところ、

およそ6%の人が陽性だったことが分かり、病院は地域での感染の状況を反映している可能性があるとしています。

慶応大学病院によりますと、今月13日から19日の間に新型コロナウイルス以外の患者、67人に対して、

手術前や入院前に感染しているかどうか調べるPCR検査を行ったということです。
患者は全員、新型コロナウイルスに感染した際に見られる症状はありませんでしたが、およそ6%にあたる4人が陽性と確認されたとしています。

この結果について、慶応大学病院は患者は病院の外で感染したものと考えられ、地域での感染状況を反映している可能性があるとしています。

慶応大学病院では、これまでに院内感染の疑いが強いとされる東京台東区の永寿総合病院から転院してきた患者を発端に入院患者や医師などが感染し、

診療に影響が出たほか、集団で会食していた研修医およそ20人が感染していますが、このほかに感染拡大はないとしています。

専門家「予想以上に市中感染者がいる可能性も」 慶応大学病院の調査でおよそ6%に当たる4人の患者が陽性だったことについて、
感染症に詳しい東京医科大学の濱田篤郎教授は「病院という特殊な環境であるため、そのまま全体に当てはまるかは分からないが、
これまでの予想以上に市中に感染者がいる可能性は考えられる。ただ、感染した人からほかの人にどの程度ウイルスが広がるかは分かっていないことも多いので、
冷静に対応する必要がある」と話しています。

また、軽症の患者のホテルや自宅での療養について、「この感染症は容体が急激に悪化するおそれがあり、
軽くても症状が出ている人に対しては医師が定期的に診察できる態勢が必要だ。今後も自宅で療養する人はさらに増えていくと考えられ、
こうした態勢づくりを急ぐ必要がある」と指摘しました。

さらに、22日発表された政府の専門家会議の提言で、医療従事者などへの偏見や差別が広がっていると指摘されたことについては、
「医療従事者は通常の業務に加え、差別、偏見というさらなるストレスがかかると離職者も増え、貴重な戦力を失いかねない。
社会全体で彼らをねぎらう気持ちを持ち続けることが必要だ」と指摘します。

そして、緊急事態宣言の期限となっている来月6日以降の見通しについては、「今の時点では日々、感染者の状況も変化しているので、
まだはっきりしたことは言えない。ただ、緊急事態宣言については来月6日で全体を解除するというのは現実的には難しいとみられる。
社会への影響を考えて、感染者数が少ない地方など、可能なところから徐々に解除するなどの方法を検討する必要があるのではないか」と指摘しました。

 

引用ここまで

 

これは、どういうことかというと、慶応病院が新型コロナウィルスの患者を受け入れたから院内感染が起きたのではなく、

調べてみたら、どこから来たのかわからないけど、新型コロナに感染している患者さんがいた。

同時に、医療従事者である医師や看護師や医療事務の方々もそうだよ…ということです。

 

病院になにか異常事態あったから院内感染が広がっているのではなく、もともとの病院空間のフォーマットがそこまでの防御システムがなく、

市中と変わらないし、病院にいるからといって安全ではないんだよ、過剰な期待はやめてくれ、という意味です。


だから、院内感染というと、なにか病院に問題があるかのように捉えがちですが、

同時に医療従事者にミスがあったんでは?と捉えがちですが、そもそもの装備が感染症に立ち向かえるようになっていないんです。

 

そもそも、通常の病院では、指定感染症を受け入れることはできません。

同時に院内感染を防ぐような防御システムも持っていないんです。

 

だから、新型コロナウィルスの疑いがある…と言われても、検査することも、治療することも、受け入れることもできないんです。

それが実情なんです。

 

だから、しょうがないのか?

ではなく、そこから頭を切り替えて対策を考えていかなくてはならない、ということです。

 

孫子の兵法にもあるように、「敵を知り己を知れば百戦殆うからず 」です。

 

 

敵とはこの場合、COVID-19新型コロナウィルスですよね。

己とは人類全体、目の前でいえば日本の社会や、日本の医療機関、私の場合でいえば建築の空間です。

 

今、建築との関係で、敵についてわかっていることは、
1.コロナウィルスは飛沫核感染をするから空気中に一定期間は漂う。

2.そして、コロナウィルスのほとんどは床に落ちている。

3.プラスチックやステンレスなどのツルツルした無機系素材の上では8時間以上も生きている(感染活性化をもつ)。

4.そこに一定の湿度があると、さらに生きる。

 

1.の対策は、換気でしたね。

2.の対策をしっかりしていないといけない。

 

これまで、医療機関で院内感染を起こしてしまっている根本的な理由は、

「病院は病気を治すところで、病気のほとんどは治せるのだから、どんどん来てください、オープンしてます。」

という考え方からです。

病院空間は、そこにいる人々を絶対に感染させないぞ!防衛するぞ!という城郭や砦の構造ではないんです。

むしろ、身分や特権によって区別されない、誰にでも優しい、楽市楽座という感じですね。

 

だから、簡単に予防できない、治せない病気のケースに苦慮しているというわけです。

 

そういう、意味では、絶対に感染させない!という施設の考え方が参考になるんではないか?が、

前回ご紹介した「踏み込み消毒槽」なんです。

 

これは、畜産業の考え方なんですね。

 

可哀そうではありますが、養鶏や養豚は牛の牧畜において、病気に感染した鶏や豚や牛を治療する、という考え方はしていません。

個別の怪我とか、感染の恐れのない病気についてはエサや抗生物質で治癒を促進する、ということはあるでしょうが、

 

家族の一員としてのペット動物のように手厚い保護や治療というわけにはいかないんです。

飼育している動物の数も多いし、事業として成り立ちません。

 

だから、徹底的に感染症は予防する。

事業としての費用対効果で出来るだけ感染を防ぐ。

ウィルスを鶏舎や畜舎や牧舎に侵入させない。

 

という考え方でやっています。

病気に罹っても病院ありき、ではないんです。

 

獣医さんがいるじゃないかって?

畜産における獣医さんは、繁殖がメインの仕事です。

もともと、獣医という仕事の本道がそっちなんです。

 

だから、感染症に対しても治療ではなく、現在でも「防疫」という考え方で対処しているのが畜産の分野なんです。

 

日本畜産会のHPにはさまざまな対策指針が出ています。

家畜を病気から守るとともに安全な畜産物を生産するため
 

⑴ 衛生面から生産現場への指導、知識の普及及び啓発

⑵ 産業動物獣医師や農場指導員等を対象とした衛生技術の向上のための研修・講習会の実施

⑶ 優秀な獣医師を確保するため産業動物獣医師を志す学生に対し修学資金を給付する事業等を実施しています。

国等が実施する家畜防疫事業へ積極的に取り組むとともに、農場HACCP認証事業にも取り組み、食の安全・安心にも貢献しています。

 

畜産関係の衛生指導書を見ていると、徹底して「早期発見」「早期届出」「発生予防」「拡大予防」の言葉が繰り返し出てきます。

そして、消毒、消毒、消毒、管理区域の仕分け、管理区域の立ち入り禁止措置。

いわゆるゾーニングです。

 

人間も動物ですから、ウィルス性の感染症の防御には、これが参考になります。

畜産分野の消毒ハンドブック
 

 

この中でも、有効な消毒剤は次亜塩素酸ナトリウム溶液です。

 

そして、踏み込み消毒槽ですね。


 

この踏み込み消毒槽なんですが、重要なことは時間です。

100分1まで減らすのに1分間、検出限界までに3分間かかっていると書いてあります。

 

なので、一番よい方法は「長靴の履き替え」だそうです。

 

重要なことなので、もう一度書きますね。

「履き替え」です。

 

履き替えがもっとも効果的だということなんです。

「下履きと上履きコンセプト」です。

 

履き替えて、消毒された長靴を履いてから中に入る。
外に出るときに、長靴を消毒槽の中に置いていく。

これが、もっとも効果的な結果が出たと現場から報告があがっています。

 

敷地内に入ってくる自動車のタイヤもそうです。

つまり、土足厳禁にしないといけないんです。

 

畜舎のような半ばふきっさらしのような、動物の排泄物で汚染されてるように見える空間でも、

糞尿そのものが危険というわけではありません。
なぜなら、ついさっきまで体内にあったものなのですから。

 

むしろ、外部からの持ち込み、汚染区画からの持ち込みを防御して、

ウィルスの排除がおかなわれているならば、安全だということです。

 

ハンドブックには結論として、こう書いてありますね。

 

バイオセキュリティとは、農場に感染症を発生させないための管理(マネジメント)全般のことであり、

①農場内への新しい病原体の侵入を防ぐ、②農場内の病原体を少なくなるよう工夫する、

③いったん農場に病原体が侵入した場合には蔓延を防止して直ちに清浄化を図るなど、全体的な防疫対策を指す。
 

すなわち、防疫対策の基本は、以下のとおりである。
1. 外部からの家畜(精液を含む)の導入、訪問者・車・物品に対して、適切
な管理・消毒と野生動物・昆虫などの防除による病原体の侵入防止
2.鶏舎・豚舎・牛舎の適切な洗浄・消毒による内部の病原体の蔓延防止

 

そして、もっとも重要なことだと思うのですが、消毒の目的とは何か、が定義されています。

 

消毒の目的
すべての微生物を死滅させる滅菌とは異なり、“ 消毒 (disinfection)” は、対象物に存在する“ 対象とする病原微生物” について、

感染症を惹起きせない程度にまで殺滅または減少させることである。対象としない病原体の殺滅は考慮しない。

それぞれの病原体に対して、効果的な手法を用いて、対象とする病原微生物を殺滅あるいは減少させることが重要である。

 

100か0かではない、「感染症を引き起こさせない程度まで病原体を減少させる」つまり、

ウィルスへの被ばく量を減らすことが大事だ、ということです。

 

 

 

これ、病院建築の事例で考えると、ゾーンの切り替えで「履き替え」を噛ませるかどうか、

でずいぶんと感染確率が減ることを意味しています。

 

このゾーンの接続部、絵に「×」を書き込んだところに、関所をつくらないといけないということですね。

 

そのゾーン分けの前に大事なことは、「防疫の方向性」の問題です。

 

結局、感染症対策の考え方は、「入れない」のか「出さないのか」を明確にすることが第一歩なんです。

 

つまり、空間の問題なんですね。

 

これは、ミクロの細胞という小部屋もひとつの空間です。

そして、マクロでいえば国境で隔てられたひとつの空間なのです。

 

ある設定した安全な空間に「入れない」という考え方

 


 

設定した汚染された空間から「出さない」という考え方

 

これが、しっかり定まっていないと、うまくいきません。

同時に、の矢印はあらゆる人やモノの流れを示していて、空気すらそうなんです。

「入れない」は外にむかって空気を出すということで「陽圧」といいます。

「出さない」は、外の空気が入ってくるということなので「陰圧」にします。


私はクルーズ船の感染原因はこの空気の制御が出来ていなかったと判断しています。

 

出さないつもりが出てしまったり、入れないつもりが入れている。

もしくは、はじめから入れていた、はじめから出していた。

 

これが、院内感染の原因なんですね。

 

本来ならば、日本列島は海に囲まれているのだから、早い段階で「防疫」をおこなっていればよかったんですけどね。
 

 

まあ、それは江戸時代で長崎に出島なんていう場所を設けていても、さまざまな伝染病が入ってきたわけですから、

限界はあったとは思いますが、少なくとも大流行をさせないレベルにまでウィルスの蔓延を抑えていたとはいえます。

 

一方、ミクロの世界の「入れない」「出さない」をやっているのが製薬です。

「カモスタット」「ナファモスタット」という薬品は、細胞内に入れないという作用を期待された薬です。

 

 

アビガンは、入ってしまったウィルスを「増やさない」結果、細胞の外に「出さない」という薬です。

感染症の問題は以上のように、ミクロにおいてもマクロにおいても、空間制御の問題なのです。

 

ならば、政府の新型コロナウィルス対策の委員会には空間制御の専門家がいないとダメだということになりますね。

少なくとも、国土交通省からも農水省からもメンバーの参加がないと無理です。

 

前述した畜産分野の消毒ハンドブックは冒頭に大変重要な記述があるのですが、それは農場HACCPという考え方です。

 

つまりですね、畜産はそのまま食品とつながっている、ということなんです。

 

ならば、HACCP食品工場がどのように防疫しているかを見ていきましょう。

 

実はわたくしは、食品工場の設計(焼き鳥チェーンのセントラルキッチンですね)もやったことがありまして、

食品HACCPの協会にも入っているんですね。
そういうわけで、件の築地市場移転、豊洲市場問題では新築された豊洲市場が本当にHACCP準拠しているかどうか、

東京都のの委員として調査もしているのです。

これは、以前ご紹介したGS環境システムさんの提案するクリーン空間の制御システムです。

 

この模式図の中で、一番清潔でなくてはならない場所は右上の調理し箱詰めしているお弁当のエリアです。

だから、その部屋に到達するまでに様々な関門が設けられています。

 

まず、外から来た靴の清掃ですね。



長靴洗浄機ブーツウォッシャー

 

そして、中用に履き替えた後もまた、靴の洗浄です。

 

自動靴底洗浄機 オートマット

 

この中履きの長靴は常に清潔に保たれるだけでなく、乾燥もされています。
 

 

長靴の裏側が見えるように、目視で確認できるようにという意図もあります。

続いて、作業場前のエアシャワーです。
 

 

工場への異物混入を防ぐエアーシャワー

 

 

また、防護服の上からもさらに防塵対策をやっています。

入退室時の防塵・防埃対策

 

これらの部屋のつながりが厳重なだけでなく、陰圧、陽圧対策までやってあるんですよ。

それがHACCP対応型の食品工場なんです。

病院建築よりもずっとずっと厳重なんです。

 

 

つづく

 

 

 

 

 


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