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新型コロナウィルスにおける建築的考察⑨

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HACCP実践研究会という組織がありまして、私もメンバーなんですが、
NPO法人 HACCP実践研究会

 

そこでは、食品工場のゾーニングについて、研究実践、研修をやっています。

HACCP手順とゾーニング

 

野菜も肉も魚を扱うような食品工場で、空間のゾーニングをいかに対処するべきか…という資料です。

この絵で示されているのは「陽圧管理」という手法ですね。

 

食品工場の加工手順の中で、もっとも清潔を要する箇所がどこなのか?というところから始まり、

そこが一番陽圧になっていることを示しています。

 

これを医療機関で当てはめると、手術室などが陽圧であるべきなんですね。

 

一方、この食品工場では便所が負圧=陰圧です。

それは、便所が一番衛生的に汚染度が高いということで、換気扇を回して部屋の空気を吸い出しているからです。

 

それぞれの図を簡単に解説すると
 

 

赤い線が人の流れを示していますが、入退場室から清潔区域に入った人は準清潔区域に行けますが、その逆はない。という一方通行が大事なんです。

サニテーションというのは清潔ゾーンに入室前の手洗いや、靴洗浄、エアシャワーのパスボックスなどによる衛生管理体制のことです。

参考:セギジャパン

 

一方、モノの動きの方ですがこちらのゾーニングは非常に大事で、入荷から出荷の過程で汚染ゾーンから清潔ゾーンに入ってきたものが、
再度、出ていくわけですから作業効率を考えながらゾーニングをしないと、素材の温度管理がおろそかになったり、生産性が下がるので本末転倒です。

でも、これはですね、一般家庭の調理工程でも同じなんですけどね。
シンクの中で泥付き野菜を洗う(汚染状態)→まな板の上で皮を剥く(準清潔状態)→加熱調理(清潔状態)

これを逆にすると、たとえば料理をシンクに落とすと汚染されますよね。

床に落としても三秒ルールというのもダメです。

 

そして、空気の流れです。

ここで一番気を遣うのが、原材料の入荷のところです。

ここは外気に接しているので、油断していると塵やほこりだけでなく、虫や小動物や目に見えない花粉や胞子が侵入してきます。

なので、必ず前室を設けるだけでなく、ドッグシェルターやエアカーテン連動式の高速シャッターなんかを使います。

 

参考:防虫対策の徹底に!陽圧ブース&エアーカーテン 蒲田工業株式会社

 

 

そして、清潔ゾーンの空調はこういうのでなければいけません。

「ソックスダクト」です。

 

ソックスダクトというのは、室内の温度ムラをなくし、埃や塵を出さないように空調するために、

不織布で作られた大きなロケット風船みたいな長い空調吹き出し口です。

温度を下げた室内で作業をする人の健康管理のためにも、細菌やカビ対策にもソックスダクトは必須です。
温度管理が重要な生鮮食品工場などでは、このダクトを使わないと清潔ゾーンとはいえ危険なんですね。
 

参考:(株)サンロード 電石サニフィルターの特長

 

続いて、「陽圧管理」です。

これがですね、けっこう難しいんです。

 

圧力差を設けるということは、空気を押し込んでやらなきゃいけないんですね。

そのときに、外気直接じゃダメでエアフィルター(HEPA、ULPA等の)を通して清浄化した空気です。

 

HEPAフィルターとは、High Efficiency Particulate Air Filter=高効率微粒子空気ろ過の略で、
「定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」
と定義されています。

µmはマイクロメートルという単位、Paはパスカルという圧力の単位です。


0.3μmというと、ウィルスをキャッチすることはできないんじゃないか?と思われますが、
HEPAフィルターの構造上では、運動する粒子の軌道に繊維がぶつかるだけでなく、微粒子を静電気で吸い寄せる効果もあるので、

ほぼ、ろ過できていると見ていいようです。

 

陽圧管理というのは、空気の圧力差をつくって「陽圧室」内に周囲の空気が流れ込まないようにする仕組みです。

周囲の空気が流れこまなければ、それに乗って細菌やウィルスも入ってこないだろうという考え方です。

 

なので、お弁当の工場でいえば、最終の調理と盛り付けをおこなう作業エリアは陽圧で管理される必要があるのです。

 


 

外食チェーンの多くが、同じメニューを同じ品質で全国に供給するためのセントラルキッチンの仕組みによって、ほぼ完成品の料理を冷凍供給したり、

外食でも自炊でもない、中食と呼ばれるスーパーやコンビニの持ち帰りの総菜やお弁当の需要が増えたことにより、
即日納品を目指して、こうした食品工場は消費地の近くにたくさん位置しており、日本各地にこうした食品工場が出来ています。
 

そのほぼすべてが、HACCP準拠の衛生管理をしているため、我々が毎日安心してこれらの食品を購入できるだけでなく、
こうした工場での衛生教育は、微生物や細菌からのバイオハザードに関する知識を働く人にも広げてくれているでしょう。

また、アルコール消毒剤や防護服や手袋といった基本備品の需要を生み出してくれているので、大量生産によって価格が安いのです。
同時に、前回でも見た畜舎の衛生もそうでしたが、こうした衛生管理のネットワークが生産現場から小売り店舗までいきわたっていることが、日本人の衛生感覚に好影響しているといえるでしょう。

こういう不断の努力と規則と慣習がいきわたったおかけで、日本全国で美味しい料理が、いつでもどこでも手に入れることができるのです。
 

この陽圧管理という手法は食品だけでなく、さまざまなシーンで登場します。

工業製品の現場や検査のためです。
 

なので、こういう簡易型の陽圧室も成立します。

 

三共空調株式会社 簡易陽圧ユニット FFU-P シリーズ

 

既存の部屋を陽圧室に変えてしまおうというものです。

 

さらに、簡易的なものもありますね。
 

 

日本エアーテック(株) クリーンブース

 

既存の建物の中に設けるのでしたら、よく工場の中の一室として設けられているクリーンルームもありますよね。

精密機械の検査とか粉塵を避けるためのものです。

 

 

KAMATAクリーンブース


こんな風に、建物の中に陽圧ブースを入れることができるんです。

 

食品工場の考え方は、まず安全な空間を確保して、そこに危険な物質や細菌やウィルスを「入れない」という考え方で出来ています。

 

それに比較して、現在の医療施設はどうでしょうか…

人類は感染症を恐れてそれを避ける逃げ回る時代から、医学の進歩によって予防可能になり治療可能になったおかげで、

「入れない」「出さない」ではなく、医療施設は、大胆にも「開く」「放つ」方向に向かってきたという話をしました。

 

「病院の設計」「health care desgin」とかで検索しても、実に開放的で、ウェルカムなおもてなし感に溢れる空間が出てきます。
天窓あり、庭あり、吹き抜け、ガラス張り、絨毯敷き、ホテルのラウンジやカフェやレストランと同じような雰囲気ですね。
特に、受付カウンターと待合からすべてがつながっている空間づくりです。

医療建築は、サービス業の頂点に向かうかのように、どんどんこういう傾向に突き進んでいます。

医療に近接する介護福祉系施設も入居料金を高く設定するためにも付加価値を高めていきましょうという方向ですね。

 

しかしながら、今回の新型コロナウィルス禍に直面して医療建築も「入れない」というコンセプトで手を入れる必要が出てきます。

 


そうしないと、患者さんの前に医療従事者の方が感染を起こして、医療機関が停止してしまいます。

欧米で起きている医療崩壊はそういう事態です。

 

まず、この病院プランを例に考えていきましょうか

 

まず、一番やりやすい方法として、敷地に余裕があるならば、

別棟を建てることです。

 

発熱外来のみを受付けて、検査だけをおこなうためです。

スタッフも専用化しないといけません。

プランニングは、食品工場で見てきたように、清潔ゾーン、準清潔ゾーンと分けて、

清潔ゾーンには入る前にサニテーションのパスボックスを入れる。

また、動線は一方通行にする。

医療スタッフが休憩できるゾーンをしっかり確保し、そこは絶対に汚染させないことです。

 

 

 

仮設ならば災害時に用いられるような、エアドームもありますね。

 

クイックエアドーム コンポ

 

しかしながら、そんな敷地に余裕のある病院ばかりではないでしょうし、

既存の施設の中でどうゾーニングしていくのかを考えるほうが先決ですね。

 

やはり課題になるのは、既存の医療施設をどのようにリフォームできるのか…ですね。

 

 

つづく

 

 


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