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葛西臨海水族園が平成の名建築である理由⑩

日本の水族館の歴史についてでした。

戦後のわが国の水族館建築を変えたのが江ノ島水族館だった…というお話です。

 

1954年(昭和29年)に完成しました。
当時のモダニズム建築の雄、前川国男を思わせるような造形ですが…
 

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設計も施工も竹中工務店です。

建築家は、竹中工務店の添野耕一さんです。

 

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道路側のピロティで浮かせた外観は優等生的なル・コルビュジェ風なのですが、中庭を通じて江ノ島を望む風景が秀逸ですね。
コの字の建物の中に円形のレストランを挟んでいる造形的処理が見事です。

 

当時の建築専門誌「建築文化」の1954年8月号の表紙にもなっています。

 

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平面図を見てみましょうか。

 

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平面図に色分けをしてみましたが、青いところが水槽で、黄色いところが観客がいる場所いわゆる表側、

赤いところがバックヤードをはじめ、運営者や働く人の場所、裏側の空間です。

 

この図をみてハッキリわかると思いますが、

見えてくるのは、水族館という建築の構造です。

水槽を挟んで、オモテの空間とウラの空間に分かれているということです。

 

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そして、この写真を頭に入れたうえで、次の江ノ島水族館の断面図を見てください。

建築家だったら、この矩計図を見ると、たまげると思いますよ。

 

合理的過ぎる!というかギリギリまで突き詰めたアソビのない設計。
立体的な工夫が凄い。

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設備関係も含め、水槽と排水系が、ほぼほぼコンクリートで立体造形してあって、ここでは建物の中に別途で水槽を置いているのではなく、建物の中に巨大な樋を仕込んで水を循環させてろ過機に導いているんですね。
いわば海水の流れる川を仕込んであるのです。
その大樋の側面をガラスにしてあり、そこを眺めている仕掛けなのです。

 

そのガラス部のディテールもですね、結構ギリギリ、だけでなく表面がテラゾー磨き仕上げになっている。
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なんだ!これ!
テラゾーというのはですね、人工石といわれるもので、細かな石を混ぜて色をつけたホワイトセメントを固めて磨いたものです。
かつては、これでシンクを作成したりしてましたが、手間が非常にかかってしまうので、
現代では高級仕上げと化して、やる業者さんもほぼいませんね。

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それだけじゃない!トップライトまでが断面構造で仕込みまくってあって、
構造イコール仕上げ!&仕掛け&設備&空間!ってことで、サーリネンかよ!っていうレベルです。

 

 

建築の設計というより、プラント設計に近いです。

 

 

これは、明治時代の和田岬水族館でもいえることで

あらためて色分けしてみますと…こうなります。

 

青いところが水槽で、オモテが黄色、裏側が作業側です。
この頃は、いわゆる建物の中に水槽を置いてあるタイプでしょうが、
 

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この、水槽を挟んで、二重の空間構造が水族館の特性なんですね。
 

なぜそうなるのか?というと、水槽というのは我々が生きている地上の世界とは別世界、異世界なんです。

そもそも、炭酸ガス交換、呼吸をする媒体が液体と気体、水と空気という違いがあります。

それだけでも、大変な人工環境です。水を陸上に持ち上げて遮蔽する必要がある。
いわば巨大な入れ物ですね。

しかも、その内部を、水の中を見せるようにしないといけない。
それに加えて、温度管理が必要。

呼吸ができるように、餌や排泄物で汚れないように、水質の維持をしなければならない。

 

魚は変温動物というだけでなく、水温ではだいたい20度以下で暮らしている。

それに加えて、水圧という目に見えない力が働いている世界です。

 

水族館というのは異世界を見る場所なんです。

そして、異世界を維持するための仕組みが必要なんですね。

 

それの裏方作業を、24時間休みなく、365日、動物の寿命が続く限り、何十年も維持することが前提なんです。

 

しかし、その仕組みは見せちゃいけない。

 

見せちゃうと、水族館じゃなく、いけすの魚料理になってしまいます。
 

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つまり、こういう関係です。


異世界をより実態に近く、大きく、自然に、水族の生活環境を整えれば整えるほど、維持管理の空間の方が大きくなっていく。

時代が進めば進むほど、水族館の構造は、図で言うピンクのところが、大きくなっていってるんです。
 

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だから、

水族館は、20世紀中に、どんどんどんどん巨大な浄化槽プラントのようなものになっていったんです。

 

 

つづく
 


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