葛西臨海水族園に行った人、みなさんが、これなんだろうか?
と不思議がられる建物があります。
これですね。
葛西臨海公園展望広場レストハウス、通称「クリスタルビュー」です。
Kasai Seaside Park Crystal View
飲み屋やバーやなにかの集まりで、私が建築関係…と知った人から、
テレビや新聞等のマスコミの仕事をするようになってからは喫煙室とか楽屋とかでも、
よく、いろんな人に尋ねられました。
あの葛西のガラスの箱は何?と
行ったことはあります?と聞き返すと、
行ってみたけど、なんにもなかった…というお話か
前から気になってるんだけど行ったことない…なんでガラスの箱なのか…という
あそこはですね、海と空を見るところです。
とくに、夕焼けの海と空を見に行くところですね。
海と空見るためだけの建物ですか?
そうです。
が、僕の見解は違っていて
鳥居だと思っています。
海と空を見る建物であると同時に、葛西臨海公園全体が大きな神社の境内であり
あのクリスタルビューは、いわば鳥居であり、同時に月見台のようなものでもある。
あの展望台があるからこそ、あの場所になにかの魂が宿っている一種の神聖な場所になっている。
現代の都市と今の東京湾の海と都市に住む人間が、剥き身の姿で出会う場所なんですね。
神社の基本構成はこうなっています。
参道という中心軸線上に、一の鳥居、二の鳥居とどんどん奥に分け入ってく空間構造。
ここに各神社地がもっている独自の地形、山や海や峡谷や崖といったものを景として取り込み、
その自然景観に神聖なものが発露するような計らいがあります。
たとえば、上賀茂神社ならこうです。
本殿奥の山体が神聖にして侵すべからざるものとして、
手前に本殿があり、本殿から楼門や橋、舞殿等々の建物が配置されていく。
その手前の参道は一の鳥居、二の鳥居と二重三重に結界が設けられていっていますよね。
お酒の神様として有名な松尾大社ならこう
西の山体を背景に東に延びる参道と二ノ井川、一ノ井川、御手洗川と、
さすが、お酒の神様だけあって、清純な水の流れが結界を作り出していますよね。
これらの神社の空間構造、配置関係を知ったうえで、
もう一度、葛西臨海水族園周辺を見てみると、これまでと違ったものが、
谷口吉生が仕掛けた、この場所における大きな計らいといったものが見えてくるでしょう。
わかりやすく、動線を重ねてみましょう。
ね?
海をご神体とおいてみれば
神社の構造をもっているでしょう?
だから、これは海への参道なんです。
ここは、海そのものを胎蔵している本殿です。
そして、鳥居と結界が続きますよね。
水族園入り口ゲートも緑の中に埋めてあります。
そして、
白砂のごとき広場の結界がある。
実は、このガラスのドームも鳥居であり結界なのです。
そして、ガラスドームの中にあるエスカレーターのところ
海の世界に入る最後の鳥居です。
海を見ながら海の中に入っていく演出なんですね。
この葛西臨海水族園が
ただの水族館じゃない。
ただの公園ではない。
江戸東京に、京都の神社のような、もう一度千年以上の聖地を作り出そうとしているのです。
この建築が、今の日本の現代建築の白眉であることの理由
日本の宝であることがわかっていただけたかと思います。
つづく