さて、みなさん、これはなんだと思います?
葛西臨海水族園が平成の名建築である理由③でご紹介した
リアルジンベエこと、
関口さんからいただいたんです。
ラベルに書いてあるとおり、浅草海苔の佃煮でしょ?と、まあ、思われると思います。
そう書いてあるからね。
しかし!見る人が見れば、これは衝撃的な事実。
もしくは、本当?マジ、マジで浅草海苔?しかも葛西産?
ありえないだろ?というものなんです。
なぜなら、浅草海苔は絶滅していた(東京湾では)からなんです。
えっ?なにそれ?浅草海苔って浅草で売ってるんじゃないの?と、まあ思われると思います。
違います、浅草で売ってるから浅草海苔ではなく、浅草海苔という海苔の品種なんですね。
昭和初期までは、東京湾は日本一の海苔生産地だったんです。
なので、「江戸前海苔」、「本場海苔」とも呼ばれていて、浅草海苔は、味、香り共に一級品として知られ、養殖が難しく、希少で高級品として通ってました。
どうやったら、海苔が生えるのか…、殖えるのか…、産地の江戸でもよくわからないままだったんですね。
海苔は、放っておけば生えてくるものでもなく、その生態は結構複雑繊細で、
安定的な養殖技法が確立したのは戦後なんです。
海苔は、生育の途中で牡蠣殻等の貝殻内で糸状体という、一見、海苔には見えないようなカビのような状態で夏を越さないと育たないということが発見されて、種苗技術が確立したんです。
その発見をした人は、イギリスの海藻学者で、
キャスリーン・メアリー・ドリュー・ベーカー
Kathleen Mary Drew-Baker (1901~1957)という方です。
まさに、日本の海苔の母といってもいいでしょう。
現在の海苔の産地である有明海では、ドリュー女史を恩人と称え有明海が一望できる宇土市住吉町の海岸にに女史の顕彰碑を建立しています。
日本の漁業生産高1兆6000億円のうちの、約4分の1が養殖です。
その日本の海面養殖業の全生産高のうち、海藻類が4分の1であり、
海藻類の中でも海苔が8割を占めていますね。
つまり、日本人がもっとも好む海藻は海苔であり、それはドリュー博士の発見によって、養殖技術の確立した戦後に飛躍的に伸びたといえます。
ところが…なんです。
かつての日本の海苔生産でも品質で最高級のアサクサノリはどうなのか?
江戸時代から300年以上も名産品として、昭和初期まで海苔の生産日本一で最高級と謳われていた浅草海苔の東京湾ですが…
消えました…。
産業ごと…
せっかくの一大発見の恩恵を被ることなく、アサクサノリは死にました。
完膚なきまでに消えました。
昭和初期までは、この地図でいう赤いところ、ここがいわば海苔の産地。
海苔だけじゃない、江戸湾の豊富な魚介の生息域でした。
これがですね、戦後こうなりました。
ほぼ全部なくなりました。
ほぼ全部、埋め立てられた。
結果として、アサクサノリはいなくなりました。
海が汚れただけでなく、漁民が消えたからだけでもなく、アサクサノリは貝と共生していたので、
干潟に育つ貝がいないと、糸状体時代を生き延びられないからですね。
ちょうど、前回の東京オリンピック直前の1960年前後に、
港湾整備のための漁業権の放棄と共にアサクサノリの養殖は消えてしまったんです。
その後、長い間、50年近くも
この浅草海苔、東京湾では絶滅していると思われていたんです。
千葉県立中央博物館の菊池先生の調査でも東京湾では発見できず
絶滅危惧種アラクサノリの生育状況
千葉県立中央博物館 分館海の博物館 担当研究員 菊地 則雄
それが、2006年のことですが、東京湾で生き延びているアサクサノリが発見されました。
こういう干潟の葦の根本なんかに付いているそうです。
それくらい、超希少なアサクサノリ。
それが、佃煮になっている。
だから!大変に驚いたのです。
しかも!葛西産とある。
江戸時代の俳諧の指導書である「毛吹草」という書物があります。
著者は、松永貞徳の弟子で松江重頼。正保2年(1645)に出版されたものです。
貞門俳諧の作法や、発句・付句の作例、季語やことわざ、諸国名物などを収録しています。
その中で、「下総国」の項目に「葛西苔 カサイノリ」とあり、「是ヲ浅草苔トモ云」と書かれています。
つまり、葛西産の浅草海苔というのは正真正銘の本物の浅草海苔なんだ!ということなんです。
ビンのラベルをもう一度みますと、はっきりと「葛西産」と書いてありますね。
なぜ、これが現代に?と、驚いたわけなんですが、
それくらい希少なもの。
同時に自信の表れ、決意表明、そういった意味が込められている。
なぜなのか?
なぜ、これが存在するのか?
前述した関口雄三さんらが養殖しているからなんです。
動画:東京湾の再生をめざし、海の守人として
海苔やワカメの養殖体験を ボランティアで行う「NPO漁師」
2018/12/21
東京湾の天然の浅草海苔の養殖に成功しました。
今回は、(株)フィスコの関根さんの協力で、東京湾で採れた天然浅草海苔から糸状体を培養し、胞子を出させて、海苔網に付け、葛西の海で育てて、収穫できるまでになりました。快挙です。
凄いよ!
竹ヒビというのは、貝殻で夏越しをした海苔が育つための足場の役目をする竹枝のことです。
かつての海苔の産地には、海の畑と呼ぶにふさわしいこの海苔ヒビがずーっと植えられていました。
当然、海苔だけでなくこのヒビの周りを隠れ家にする小魚や干潟の生物がたくさんいたんだとおもいますけどね。
浮世絵にも描かれています。
海岸線にずーっとワサワサとあるのが海苔ヒビです。
逆にいえば、海苔を復活させるには、貝もいなきゃいけない、水がきれいにならなきゃいけない。
いろんな生き物がやってきて、周辺のなぎさの環境が自然に戻らないとなしえないんです。
この人工なぎさで海苔が取れるようになったんです。
凄いことだと思います。
つづく