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頭文字I(イニシャル・アイ)の建築家②井手孝太郎の巻の1

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2018年に私が見学した、そして驚いた、頭文字Iの建築家の二番手は!

井手孝太郎さんです。

井手孝太郎さん率いるアールテクニックのHP

 

もうね、これは、もう、本当にビックリしましたよ。

といっても、本当にビックリしたのは完成後ですが…

 

実は、井上洋介さんの下北沢の家からすぐのところ、1分くらいのところでその建物は建設中でした。

 

 

なんということでしょう。

その建物は、すべてコンクリートの階段で出来ていました。

 

というか、その後、完成後にお邪魔することでその謎は全て解けるのですが、

この時点では、本当に立体の迷路、ダンジオンでした。

 

もう、これも似たものといえば現代建築の中にはありません。

カッパドキアでした。

 

 

カッパドキアというのはですね、トルコにある地下都市です。

 

 

ここはですね、建築学科の学生なら絶対に行ってみたい場所のひとつなんですね。

もちろん、私は行っています、大学生の頃に。

で、ものすごーっく感動しました。

 

だって、千年以上前に岩山をくり抜いて、その中に複雑なトンネルを掘って、大勢の人々が生活していた住居群。

なんか、もう異星人の都市というか、SFの世界なんです。

それが、そのまま残っている。

それだけじゃない、その一部がホテルになっていて宿泊も出来る。

 

当時、二十歳くらいの森山くんは、イスタンブールからブルサを経て、コンヤを経て、夜行バスに乗ってカッパドキアに着いて、

この奇岩と穴居群を目の前にしてもまだ、本当にあるんだ!マジか!って思いましたね。

 

 

人間なんて、ララーラーラララーラーって、聞こえて来ました。

実際にはバスに同席したドイツ人学生がなぜかG.B.Hのテープを大音響で流していたので、

ハードコアパンクスのノイジーな音響の中だったのですが…

 

山や地面とくり抜いて、何世紀にもわたり、人々が生活していた都市が現前じました。

 

もうね、スターウオーズかよと、タトゥーウィンかよ、ここオビワン・ケノービー居るんじゃないか?と思いましたよ。

 

 

カッパドキアのこの遺跡群のあるところは、ギョレメ峡谷といいまして、

「風の谷のナウシカ」の風の谷のモデルにもなったところです。

 

 

なぜ、このような岩山峡谷に穴を掘って人々が生活し始めたのかというと、

今から1600年ほど前の4世紀に、ローマ帝国の迫害から逃げてきたキリスト教徒たちと言われております。

ローマ帝国の後は、7世紀頃からのイスラム教の侵入にも耐えて、総勢6万人規模の巨大な地下都市となりました。

 

元々の凝灰岩の岩山が風雨の浸食によって、複雑に入り組んだ深い谷間と、

岩頭に石を残して尖塔状にそそり立った煙突のような見張り城のような自然形状が、

そうした異教徒達の隠れ里にぴったりだということもあったのでしょうが、

数百年の掘削と空間の押し広げや、井戸の掘り抜き、換気口の形成、

複雑な地底トンネルの連結によって、ゲリラ戦にも耐えうる恒常的な防御の都市構造に至っています。

 

そのような、雰囲気だったのです、井手さん設計の下北沢の家は。

 

なぜなんだ?大都会の住宅地のど真ん中に、カッパドキアなんだ?と驚きました。

さらに驚いたのがそのプランです。

 

 

えーっつ!!!真っ直ぐなところが無いじゃん!家の中に!です。

敷地の形状が四角ですから、外の壁こそそれに沿って直線ですが、内部構成に直角がない。

直角どころか、まっすぐな線がない、小刻みに折り曲げられた壁面は厚みも角度も違う…

 

これ、何構造なんだろう…

現場は確か、コンクリート打設してたけど…

 

 

この日の見学ではですね、

1階の入り口からずっとー連なる階段を歩き回って、ホントに面白いちゃあ、面白いんですが、

ずっと山登りしてるような感覚。

 

時々、スキマから外の光も入るんですが、ホントにカッパドキアに行ったときと同じような、

まるで、岩山を歩いているような、

さっきまで下北沢周辺の高級住宅地だったはずだよね?この辺…という、場面転換と、

コンクリートの床や天井や壁に囲まれているのに、ちっとも閉塞感を感じない。

むしろ、何か自然の中にいるかのような驚き。

 

そんな体験は初めてでした、工事中の建設現場なのに…

 

そして!

数ヶ月後のことですが、井手さんより「完成した」とのご連絡があり、ワクワクしながら行ってみたんです。

 

あれ~どこだっけ?ていうぐらい街並みの中では見つかりにくい。

 

 

あんなに特殊な形態だったのに…どこだっけ…と、キョロキョロしてるといきなり現れます。

 

ええっ!?って具合に

 

何か、土木的な何かがあります、建築なのか?擁壁なのか?とか、ランドスケープ?
巨大なプランター的な…というか…

チェルシーフラワーショーのような…

 

四角い窓があるから建築なんだろう…と辛うじて分かりますが、その窓もドデカい。

スケール感がこの場所だけ違う…これは何階建てなんだろうか…

そのそも、どこまでが家で、この手前に出っ張ってるのは…望楼?

 

 

まったく、いわゆる「家」を示す世俗的な情報が皆無です。

しかも、このダークグレー色は、「コンクリート打ち放し」とか、「モルタル金ゴテ押さえ」、とかの、

いわゆる下地材料そのままローコスト仕上げではないんです。

 

左官仕上げ、イタリアの漆喰で見られるような、骨材(数ミリの小砂利)を左官ゴテで転がすように施工して、

パキッと平らにコテ押さえしながら、トラバーチン状のランダムな食い目を表面に出すような凝った仕上げ方法です。

 

 

手がこんでる。

 

なのに、白やクリームやベージュにして左官仕上げを強調するのではなく、

通でなければこの凝ったテクスチャーに気付かせないような、

手仕事感を消して、壁面に継ぎ目も見せない無機的かつ虚無を装うかのようなダークグレー。

ちょっと、ビビリました。

 

これまで、無機や虚無を表現するときには、通常の建築家ならば、黒かシルバーか白を使ってくるからなんですね。

 

建築における哲学王の磯崎新さんなんかがそうですね、既存の社会背景から想定される文脈、意味の消去に「黒」を使ってくる。

卑俗性を消して人工的な形態やデザインの読み取りをさせたいときには「シルバー」か「白」ですね。

つまり、「黒」と「シルバー」は、記号なんです、お約束の。

 

なのに、「テクスチャー付きのダークグレー」。

配色が記号的扱いじゃないんですね。

むしろ絶対に狙っている、そこから感じられる即物性。

この、ダークグレー、井手グレー、いったいどういう意図があるのか…戸惑いました。

 

同時に、どっから入るのか…

唯一、分かるのはこの段々が階段の1段だから、

蹴上げ20センチくらいで上がれるんだろうなな…あの奥の凹んだところが入り口なのかなあ…です。

 

長くなりましたので、完成後の見学会の様子は巻の2に

つづく


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