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頭文字I(イニシャル・アイ)の建築家②井手孝太郎の巻の2

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明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。
 


昨年末より建築エコノミストTVというのを始めてみてますので、

本年は建築情報多めでいきたいと思っています。

 

昨年の秋、建築家の井手孝太郎さんの下北沢の家を見に行ったお話の続きです。

そもそも、井手さんといえば、どちらかというと寡作の人です。

井手孝太郎さん率いるアールテクニックのHPを見ても年に1~2件の作品数。

しかしながら、その1件にかけるデザインのエネルギーが凄まじいですね。

その初期の頃から一貫してコンクリートの扱いが緻密です。
 

左は、集合住宅ですが、壁面を窓割りとリンクさせながらリズミカルに目地割りしてありますね。

そういったあたりの丁寧な処理は、スウェーデンの巨匠、ラルフ・アースキンを彷彿とさせるものです。

 

 

ラルフ・アースキン(1914~2005)は、社会組織のあり方や人間の社会と環境との関係を、

技術的・工業的・経済的な分析的アプローチで生態学的にデザインしようとした建築家です。

 

そんな香りがしてきましたね、井手さんの建築には。

 

特に、この軽井沢の凄い未来的な住宅は、宇宙探査コロニーのような、まったくSF的にイキがった建築に見えますが、
別荘建築の弱点である、使わない時期の湿気や換気等のメンテナンスをなるべくしなくてもよく、

落葉や凍結やカビ等に見舞われやすい軽井沢の環境の中で経年劣化に耐えうるために考案されたものなんです。

 

私もかつて軽井沢で物件やったことがありますが、やってみれば分かるのですが、

夏の爽やか以上に寒暖の差と湿気が激しく、冬の積雪や凍害で屋根や雨樋はもちろん、

外壁もスキマに侵入する雨水等で毎年春になってチェックすると、どこかが痛んでいる。

その補修を怠るとさらに翌年は被害が進んで、別荘ライフが段々と遠のいてしまうのです。

 

それをあらかじめ予想して、そのような被害をなくすことに特化したのがこのちょっと宙に浮かせ、

一体化したコンクリートの楕円構造というわけです。

 

 

考えてみれば、過酷な環境に最適化を究極までに推し進めていけば、このようなサイエンスフィクション的解決が、

いや、建築として現実化していくわけですからサイエンスリアリティ的な手法にならざるを得ないのかもしれません。

 

ただ、このような三次元的な空間を準備してしまうと、機能部位であるところの家具とか扉とかいろんなヶ所に影響があります。

たとえば、ガラスの形状ひとつとっても真っ直ぐではダメ、壁に合わせて楕円にカットしないといけない。

その他の全ての部分がそうです、そんなことを現場で摺り合わせしていたら、大変な作業です。

 

なので、井手さんはどうしているか?というと、すべて3次元のVRの中で設計しています。

ARCHICAD BIM事例レポート「SHELL」の場合

ARCHICAD BIM事例レポート 「Breeze」の場合

 

このレポートで出て来るBIMというのは、Building Information Modeling ー ビルディング インフォメーション モデリングの略なんですが、

設計図というのは、線を2本書いて「壁」を表現したり、その線の外側にもう1本線を書いて仕上げ面を表現したりします。

昔はそれを手書きで製図していたわけです。

 

 

CADは、この製図板をコンピューターのモニタ上に表示し、設計作業が出来るようにしたソフトです。

Computer-Aided Design の略で、コンピューターの支援で設計する、といった意味ですね。

紙と鉛筆の代わりにモニタ画面の光の線で表示されている図面です。
紙の図面の時代はオリジナル図面は絵画と同じで一点モノですから、破いたり無くしたりすると大変なことになりました。
それと比べてCADの普及で、図面はデータでやり取りしたりコピーしたりが大変楽になりました。

 

 

BIMはコンピューター上で作業する設計であることは同じですが、このCADとはまったく次元を隔するシステムなんです。

それは、コンピューター上のデータ、たとえば2本の線が書かれているとして、「約束事としての壁」と、図面を読む人が判断するのではなく、

はじめから、具体的に素材や金額や現場作業に関する仕様特性を盛り込んだ「壁データ」として設計図が作製されていくシステムです。

 

なので、BIMで製作された設計図ならば、その中にはBIMに対応した施工会社の施工管理ソフトへの受け渡しデータや製造工場の製造機械ソフトの加工データが含まれており、すぐに生産にかけることが出来るだけでなく、金額もはじき出されるといった感じに連携します。

逆に、建材メーカーからBIMに則ったデータをあらかじめもらったうえで建築設計をする、結果として施工会社もその設計中の内容を共有する、ことも可能というわけです。

 

これまでの設計図は、図面に表現されている以上のことは何もないのですが、

BIMでは図面で表現される部位の情報に、あらかじめ埋め込まれた、建設に必要なデータを保持しているのです。

 

設計図が、線や図形と文字による記号の集合ではなく、一定のまとまりをもった部品の集合として、

仕様の決まった部品と部品の結合した部分の集まりとして、連携的に作られていくことを意味しており、

設計作業が「オブジェクト指向」になっていくことを意味します。

 

設計図でどこか、例えば壁の位置を変更すると、それに紐付けされた隠れた部分までもが同時に変更されていくようなイメージですね。

 

その使い手なんです、井手さんは。

だから、この平面図も建物を平面図の二次元を上から見て作成しているのではなく、

3次元データ空間の中に入って、FFの洞窟を探査するように設計されています。

 

 

平面形は、ざっくりU型をしていますが、四角い形態の真ん中を不定形に削り取ってあります。

 

ざっくり立体化すると、このような立体。

 

これはですね、いわゆる中庭型住宅と、いえなくもないのですが、これまでの建築的中庭とはひと味もふた味も違います。

 

この住宅が目指しているのは、外部から隔絶された峡谷の様な自然環境です。

 

 

東京の高密度に建て込んだ住宅敷地の中でいかに周囲の世俗的な環境から独立した生活景観を産み出すか?

仮に周りに高層の建物が建とうが、アパートが建とうが、店舗が建とうが、

この住宅の住民には将来的に影響を受けない人工的な自然環境を作り出そうとしたものなんです。

 

人工的に産み出した地形を元に、内部空間を掘り抜いていく、掘り抜きながら地形を変える、

そういった三次元的操作をVRを駆使して出来上がった驚異の設計なんです。

 

だから、この住宅は家を建ててその周りに単に樹木を植えたものではなく、複雑な形状をアバンギャルドなデザインとして奇をてらったものでもなく、外部環境から内部を閉ざした自閉的なミクロコスモスでもない。

 

人工的な峡谷を設営し自然環境と一体になった生活空間を提案したものなんですね。

 

 

内部は大蛇がとぐろを巻いたようにつながっていて、1階から屋上まで、地下から天上に連なる鍾乳洞や登山道のようにつながっています。

 

 

この階段が重なり合う空間のギリギリの形状が心地良いのは、3Dモデルの内部をVR的に歩き回ってチェックすればこそ、です。

 

 

そして、何か家というよりも、宇宙船の中、未知の惑星に降り立った調査員が住んでるかのようなSF的な雰囲気に満ちております。

このシーンなんか、スターウオーズで見たような雰囲気ですよね。

 

 

各、部屋というか内部空間の随所が、外部の人工自然に面しており、盆栽に巨大な峡谷や岩山を見るのと同じような、

まるで何光年も離れた開拓惑星において、科学者達の居住区において地球の景観を愛でるような印象です。

 

つまり、この井手さんの設計された住宅は、家とは何か、住むとは何か、空間とは何か、の前に、

それらを成立させるための、環境とは、地形とは、風土とか、人類の居住条件とは何か?

まるで、テラフォーミングのような緻密な検討をされたものといえます。

 

このようなSF的なコンセプトは、特殊解にみえて案外、世界的に見れば普遍的な需要が待ち受けているといった印象を受けました。

地球環境の中でも、灼熱の台地とか、砂漠とか、荒地とか、凍土とかといったような、

厳しい自然環境における宿泊施設や学術施設、リゾート開発に繋がるものではないか?と、

例えばドバイのような都市環境の中で、井手さんのこの手法で居住区を開発してみてはどうでしょうね。

 

以上、昨年の秋に見学させていただいた頭文字I(イニシャルアイ)の建築家、井手孝太郎さんについてでした。

 

つづく

 


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