本年もいろいろあったわけですが、豊洲市場の強引開場の混乱とか、
開場後の混乱とか、問題とか、客足が伸びないとか、年末なのに…とか、
今も続いているわけなんです。
築地や豊洲や市場ばっかり見に行ってるんじゃないのか?と、
普段、私のブログやツイッターなんかを見てる人は思うと思うんですけど、
違います。
案外、いろんなところに出向いている。
城や寺社仏閣や古民家、町屋ばかりではない。
以外と、現代建築も見に行っている。
いや、むしろ本業は現代建築の批評だったりする。
というわけで、見学会等にお声かけいただき、
ここんところ印象に残った新築の建物。
それも、現代の住宅デザインについて
それを紹介しようとしてましたら、
それらの作家さん、建築家のお名前が、なぜか「い」で始まる。
頭文字「I」で始まることに気付いたんですね。
井上さん、井手さん、石井さん、、、しかも同世代、昭和40年(前後)男。
彼らと知り合えたのも、建築家の横河健さんからお誘いやご紹介を受けたからなんですけども…
横河先生、いつもお気遣いありがとうございます。
私が若い頃の横河健さんとの思い出はこちら→内藤文書の解題・付録
で、その頭文字Iの一人とは、井上洋介さんです。
HPはこちら:井上洋介建築研究所
下北沢から徒歩10分くらいのところにそれはありました。
ズドン!という感じ。
えっ?コンクリートの壁?という外観ですが、
付近は高台に連なる住宅地で、幹線道路から2~3本ほど入った自然川に沿ったような道路に面しています。
なので、実際にはこんな風に見えます。
地面が一段上がっているような…
1階がコンクリートで横長く延びて二階がある?でも緑が繁茂しているし…
でも、石垣か何かがあるような…
これはですね、かつて山や高台だったところを段々に造成した住宅地でよくみられる土地
1階というか地下にコンクリートの箱を埋め込んでその上に家を建ててる形式の土地があるでしょう?
こういう住宅地です。
井上さんの作品はですね、その段差をうまく使ってうまくデザインされているのです。
お隣の古い家の土地は大谷石を積んであるのが分かりますよね。
昔の家は道路から石段で登らせてから、家に入るような構成にしていますが…
土地にスポッっと地下構造を埋め込み、道路からそのまま家に入れるようになっています。
この家、一見すると外部になんの情報も出していない。
窓も出入り口も屋根も庇も雨樋もありません、ていうか見えません。
コンクリート、石、コンクリート。
しかも、そのコンクリートが、こんなです。
ガサガサ、いやバリバリ、バリだらけ。
何!!と思いました。
こういう荒っぽいコンクリートを見ると、えっ?なんか、昔の鉄道の高架下?とか
昭和40年代の市民会館?とか思い出しますよね。
中に入っても、このバリバリのコンクリート壁が出てきます。
マジ凄ええええ!!と思いました。
なぜなら、こんな荒っぽいコンクリートは、荒っぽい設計や、荒っぽい施工では決して実現できないから…なんです。
もはや現在の日本ではこんなテクスチャーでコンクリートは作れないから、なんです。
まあ、やってやれないことはないですが、ものすごく手間暇がかかる仕上げ方法。
なんで?「荒い」のがなんで?って思われるでしょう?
実は、「荒いこと」には、手間がかかるのです。
正確にいうと「荒さをテクスチャーとして美的表現に結び付ける」には、手間がかかるということです。
木材の加工表現で「名栗(なぐり)」と呼ぶ数寄屋建築で使われる加工法がありますが、
「釿(ちょうな)」と言われる道具で、均等なバランスと微妙なバラつきをもたせながら、
手仕事の跡を付けながら、手作り感を消す、そういう熟練の技なんです。
それと同じで、テクスチャーを人工的に作り出すのは至難なのです。
それを、やっていた、井上は。
だから、そのバリバリの壁面に光が落ちてくると
こうなる。
影が出ている。
壁面の微妙な凹凸を拾って劇的なコントラストで影と光が!!
ちょうど真夏の光が、何やらアリゾナ?テキサス?って感じに。
そして、内部空間は
やはりコンクリート?と思いきや木造です。
正確には木造架構ではなく、木梁並べ、です。
ヨーロッパの古民家でみられるような、石の壁に木の梁を渡し掛けたような構成をしています。
一見、ですが。
実はこの井上さん設計の建物はL型のプランをしていて
外からは完全にコンクリートの塊に見えたのですが、、、木造でもあるのです。
むしろ、庭側にはまったく壁がありません。
外から閉鎖的に見えた家が、実はとっても開放的。
閉鎖的で分厚いコンクリートの箱だったはずが、木造で水平に窓が開けて壁がない内部空間。
欧州の古民家では壁に梁を渡し掛けているから開放的な空間にはなりません。
むしろ、柱と建具だけで解放された空間は日本的な間取りです。
閉鎖と開放が同時に為されている。
そういうマジカルな仕掛けになっている。
なぜ、そんなことが出来ているかというと…
「入れ子構造(Nested structure)」になっているからなんですね。
入れ子というは、あれです。
ロシアのお土産、マトリーショカ。
同じカタチで比例関係にあるものは、中に中に入れ込むことができる、そういう構造のことです
入れ子の特徴として、同じ間隔のスキマが出来ます。
そのスキマを活かしてあります。
そのスキマに光を落としている。
なので、壁だらけなのに明るい。
いや、むしろ壁がインテリアの重要な要素。
光を受けて自然壁画的な彫刻的効果にまで高めてあります。
これはとっても凄い処理で、コンクリートの型枠というのはあらかじめ製作した型に流し込むプリンや豆腐と一緒の作り方だから、
出来上がった壁を荒らしたわけではなく、荒くなるように計算して型枠の板のバラツキを考え、
バリが出るようにスキマを操作する必要がある。
同時に、コンクリートの壁の中に照明やら配線やらスイッチやらを仕込む必要があるため、
それらの壁面への位置も荒っぽい壁の型枠の構成の中で決めておかなくてはならない。
扉や窓の接点も同様に正確にミリ単位で位置決めや平滑面も必要となる、表現のためとはいえ大変な作業。
そのコンクリートの中に木の入れ子構造。
しかも、この入れ子の一部の壁は切り離されている。
これが!尋常なことではない。
なぜなら、普通の箱型で考えていては、コンクリートの壁構造が崩壊するからです。
だから!この建築はもの凄い建築構造エンジニアリングの塊で出来ています。
そもそも、この建物のコンクリートは驚くべきことに!箱型をしていない。
垂直の壁をつなぐはずの水平のコンクリート床がないのです。
二層にわたる壁体の中に木部がスッポリ収まっています。
これ、なにげなく落ち着いて見えますが、
私が「うわーっ凄えええ!」て唸ったヶ所です。
つまり、プラン概念は「入れ子」ですが、現実は「入れ子」を超えていた。
似たものといえばですねえ、ありません。
強いてあげるなら。マジンガーZの頭部と同じシステムです。
この開いた鉢にホバーパイルダーがドッキングしますが、
それと同様に、コンクリートの開いた壁体に、木造部分がカッチリはまり込んでいる。
コンクリート構造と木造構造が異種接合しながら空間が構成されるという意味で画期的過ぎるものです。
その効果はこの建物の随所に表出されており、
コンクリート住宅としてはあり得ないところから光が射し込み風が抜けていきます。
同時に、時間と共に刻刻と壁面は表情を変えていく。
それぞれ光が入るヶ所にある植栽も大変工夫されており、日本じゃない感じ、
まるで、南米とかアメリカ中西部に居るかのような錯覚をおこしました。
アメリカの建築家リック・ジョイや、メキシコの建築家アルベルト・カラチを彷彿とさせる…
いや、耐震基準の厳しい日本の建築構造の法体系の中で、
井上洋介さんは彼らを超えるような空間的インパクトを放っているといえます。
▲ リック・ジョイ
建築デザインのテイストは完全に日本人離れしていますが、
ご本人の雰囲気も、日本の建築家にありがちな気負いからは完全解放された雰囲気で、
ドラマの中の探偵とか刑事とか、カウボーイ・ビーバップとか、そんな感じの楽しい人でもあります。
夏にこの建物を見て、冬にもう一軒別の建物も見ていますが、それはまた後述します。
▲井上さんが、千葉の古民家の脇に設計した住宅
以上、頭文字Iの井上洋介さんでした。