先ごろ、大阪万博のマークが発表になりましたね。
こういうものでした。
ええっ!!
産経新聞 2020年8月25日記事:
2025年大阪・関西万博の運営主体「日本国際博覧会協会」は25日、大阪市内で記者会見し、大阪万博のロゴマークに、細胞をイメージした赤い楕(だ)円(えん)が鎖のようにつながったデザインを選んだと発表した。デザイナー集団「TEAM INARI(チーム イナリ)」の作品で「いのちの輝き」をテーマに制作。代表のシマダタモツさん(55)は1970年大阪万博のシンボルになった故岡本太郎さんの「太陽の塔」に触れ「足元にも及ばないが、あのようなインパクトを少しでも生み出したかった」とデザインに込めた思いを述べた。
デザインは、円や楕円など形状や大きさが異なる細胞が環状に連なるキャラクターで、70年万博のシンボルマークの桜をモチーフにした愛らしい目のような細胞核が特徴。環状の内側の形は大阪府や関西を表した。
「チーム イナリ」は大阪市内にデザイン事務所を構えるシマダさんら6人で結成。選考委員会座長の建築家、安藤忠雄氏は「今までのロゴは左右対称で安定しているが、違った方向を向いて予定調和ではない。大阪らしい楽しさもあり、新しい時代を切り開こうとする意志がある」とのメッセージを寄せた。
ロゴは昨年11~12月に公募され、5894件から5作品に絞り込んでいた。当初、今春に決定予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期されていた。今後、ポスターやグッズなどに活用しPRする。
https://www.sankei.com/economy/news/200825/ecn2008250020-n1.html
わたくしも大変、ビックリいたしました。
発表以来、SNSでは大反響というか、さっそく様々なツッコミにあふれかえっています。
まあ、やはりというか、「クリーチャー」とか、「なんらかの怪物」、「神話世界の生き物」、「ゲームのモンスター」、
といったイメージが並んでいます。
まあ、そうなりますよね。
確かに、これまでの多くの企業ロゴや、マークや、エンブレム、紋章とは、あきらかに異なったものになっています。
そこが、この大阪・関西万博のロゴマーク?の違和感なんですよねえ。
歴史的にみても、地域や文化を超えても、シンボルマークや紋章といったもには明らかな特性があります。
紋章というのは、ただ自由にデザインすればいい、というものではなくて、重要な機能があるんですね。
それは、
個人や組織の識別のためです。
民族や家族、地域、共同体、文化や宗教的な集団、公的機関、組合、軍隊や部隊といった組織および団体などを識別する。
重要なことは、それを特定できるようにする。
そのための意匠や図案であることが重要なんです。
つまり、デザインの原義そのまま、Designの語源はラテン語のDesignareですが、
de+signであり、deは、外に向かうという意味の接頭語、signは記号や刻印ですから、印を表出する行為のことをいいます。
designo(描き出す)→de-(~から外へ)+signo(印を付ける)、という意味ですえ。
「私は何者かを他者に示すこと」がデザインで、そのために作られた意匠が、マークや紋章です。
だから、紋章の役目とは、「多くの者の中から自分を見つけてもらう」、ノイズの中からパッと分かることが重要なんです。
戦場のような究極の場所では、分かるか分からないか、が生死を分けたり、運命を左右したりします。
戦場全体に敵味方が入り乱れていて、誰がどこにいるのか、味方か敵か、旗印によって識別しています。
なので、混乱の中でも目立つように、ノイズの中でハッキリわかるように、
紋章、マークというのは自律性の高い安定した形状をしているもんなんです。
自律性を高くして安定させるために、どういう手法が取られているかというと、
線対象ですね。
線対象以上に強力な手法は、「丸で囲む」です。
ある意味、丸で囲まれた瞬間に、マーク化されます。
一時期話題になった、「海水1滴の中に、こんなに微生物が!」の写真でも、
なんで、生き物がいる!と識別できるかというと、
生き物の身体(この写真では甲殻類のプランクトン)が線対象だということと、
珪藻類のプランクトンが球体や円形をしているからですね!
そういった意味では、自然界では、線対象(体に一本芯が通ってある)と円形は安定して強いカタチだということなんです。
同時に、人間の視覚というものが、それを瞬時に峻別するように特化している。
なぜなら、我々の身体が、特に顔が線対象だから。
顔には引き付けられるように学習しているのです。
特に、顔の中でも目に注目するようになっています。
眼は口ほどにものを言い、ということわざ通りに、目から心理すら読み取ってしまうわけですね。
目、もしくは、目に見える形態というのは特殊な効果を放つのです。
だから、単純な丸に目だけを描いたイラストでも十分に物語ってくるわけです。
そういったことを踏まえて、大阪・関西万博のマークを見てみると…
左右対称でもなく、円もつかっていない。
また、目玉があちこちに向いていてこっちを見てない。
まさに、これまでの紋章やエンブレムのセオリーを外していることがわかります。
選考委員会座長の建築家、安藤忠雄氏の講評
「今までのロゴは左右対称で安定しているが、違った方向を向いて予定調和ではない。」
というのは、まったくそのとおりですが、
それが、果たして
「大阪らしい楽しさ」といえるのか
そして、
「新しい時代を切り開こうとする意志」といえるのか
については、はなはだ疑問ではあります。