葛西臨海水族園が、
どれだけ画期的な建築というかランドスケープというか、エポックメイキングな水族館か、
行ってみればすぐにわかるのですが、
行ったことない人、
わかっていない人も多いでしょう。
この建築はですね
建物であって建物ではない
ランドスケープであってランドスケープではない
水族館なんだけど水族館だけではないんです。
あの、有名なというか、葛西!といえばあの、
温室みたいなガラスのドーム
これが、建物ではない。
中身はないんです。
水族館の本体はこの水の底にあるんです。
全体を上から見ればわかりますが、
ガラスのドームの周りにある丸いお皿の部分
水盤の部分の下
ここに建物があるんですね。
模型で見るともっとわかりやすいですが
つまり、我々がよく知っている葛西臨海水族園のガラスドームというのは、屋上なんです。
屋上の階段の出入り口があのガラスドームなんですね。
つまりは、
これなんです。
通常のビルでいうところの、屋上の階段室と物干し
すごくないですか?
この屋上以外を全部埋めて、
建築本体を消しているんです。
なんのために?
遠くの海とつながる景色のために、景観のために、ランドスケープのために!なんです。
建築家なのに、建築本体を隠して、見えなくして、ランドスケープを優先した造形。
こんなのはですね、世界中探してもありません。
すごい建築コンセプトです。
かつて、アルゼンチンの建築家で、エミリオ・アンバースという人が、
ランドスケープと建築を融合したような計画案を出していました。
1980年代には、この大地に埋め込まれて一部にしか建築が露呈していない、ロマンチックで幻想的でSF的な建築アイデアは日本でも非常に人気がありました。
初期荒巻義男の幻想SFとか、SFニューウェーブなスペキュレイティブ・フィクション、科学技術中心ではなく、思弁的かつ哲学的な空間を現出させるハーラン・エリスンのようなイメージですね。
この緑化された建築のアイデアは時代を先取りしていました。
アンバースのアイデアは実現が待望されていたわけですが
数十年を経て現実化された一部の建築デザインは、模型で感じられるような、日本人が感じ取るような、自然景観との一体性というよりも、そこに置かれたオブジェクト
緑化を駆使し、緑化をデザイン要素として取り込む
ちょっと強引なくらいな緑化仕上げ…
という感じになってしまい…
アンバースが世に登場したときに、みんが思い描いていたような、
この模型を見たときに感じ取っていた先進性と同時に響く、太古の歴史感
少なくとも私が大期待していたような、圧倒的なスケール感、世界観、自然観といったものは、
現実のアンバース作品では実現されていませんでした。
まあ、言ってみればアンバースの建築は遺跡表現なので、
具体的建物でこのデザインをかぶせようとすると機能齟齬や、管理コストがかかり過ぎるんでしょうね
その後、こういった建築を作ろうとする人は現れませんでした。
また、こういった建築が現実に機能するビルディングタイプもなかなかない。
それが!
自然とつながっていくような建築とランドスケープの交歓と融合に大成功している唯一無二の建築が、
葛西臨海水族園なんです。
自然景観の中で、
人の手で生み出されたものがあることによって、
その自然景観を感知させる。
それが絶景といわれるものです。
そして、これらの絶景は維持管理されながら長く後世に伝えていくべきものなんですね。
現代建築の中でも、葛西臨海水族園は、これらの歴史遺産に匹敵するはずのものなのです。
しかも、葛西臨海水族園は、水族館ではなく、「園」と名付けられていますよね。
それには理由があって、この葛西周辺の自然環境というものは、
ひとり、谷口吉生さんの手になるものではなく、
それこそ、多くの人々が、かつて、この江戸の海で暮らしていた人々が、
近代の開発や工業化の中で失ってしまった海や浜や渚を、
長い時間をかけて取り戻してきた、やっと自然に近づいてきた、
そういう、もっと大きな空間。
様変わりしてしまった江戸の海の再生に成功した、とても大切で貴重な場所なんです。
次は葛西臨海公園とはどういった経緯でどうしてつくられたものなのか
葛西という町、江戸川区の成り立ちについて解説したいと思います。
つづく