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千葉でゴルフ練習場が倒壊!の現場③

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千葉県市原市のゴルフ練習場「ゴルフガーデン」の鉄柱が、

近隣に向かって倒壊した件の分析の続きです。

 

まず、わかったこととして、

 

平面の拡張をしているということ
 


▲ 1970年代の航空写真に現在の施設の輪郭を赤く記す

 

続いて、近隣の方々からのコメントとして、「あるとき、上に継ぎ足した。」

実際に、その形状を見ると、途中から上に伸びているのと、途中から構造素材の接続が見られます。

 

 

上空からの配置状況
 

 

 

さて、これらの情報と地図、現地の状況を元に、断面模式図を作成してみました。

 


図のような関係です。
台風の風は、房総半島の外側から、南東より吹き込んできています。

 

このゴルフ練習場の配置は、真北に対し45度ほど振れているため、

まさに風圧を真正面に受け止める格好になっています。

 

これですね、もう嵐にあっても帆を張ったままの帆船とか

 

 

強風に大凧を揚げようとするようなものなんです。

 

 

でも、ゴルフ練習場の壁は、帆布や紙と違って、風の抜ける網、ネットだよね?
そこまで、風圧力受けるんですか?スースーじゃないの?と思われるでしょう。

 

ところが!なんです。

たとえ、ネットでも、強風時には、風を受ける面積が大きければ、途方もない力を受けるものなんです。

 

風圧力は、速度圧×風力係数という式で計算するのですが、

 

速度圧というのは、ある速度でぶつかってくる物体からの力と考えていいでしょう。

 

なので、速度が同じなら重たい者、質量の大きいものの方が受け止める衝撃が大きくなりますよね。

ひょろひょろの人より、体重のある関取のタックルの方が衝撃は大きいでしょう?まあそんな理解でいいです。

 

では、風は重たいのか?というと、空気ですから重たくありません。

 

空気の質量は1立方メートルで1.2㎏です。

普段、まったく気にしないですけど…空気に重さがあったんですか?はい、あるんです。

空気抵抗というのはわかりますよね、団扇や扇子を動かすときのあの手にかかる加重、あれが空気の質量です。

 

なので、速度をもった物体の運動エネルギーは、V=1/2mV二乗(2分の1×質量×速度の二乗)です。

空気は1.2㎏だから、0.6×速度の二乗。これが速度圧

 

これに風力係数を掛ける。

 

風力係数というのは、周辺環境を考慮して実際には風の力をどう受けるのか…を、計算に見込むための数値です。

 

周りに建物が密集してるか、野っ原みたいなところか、地表からの高さは何メートルくらいのところか、あとビル風みたいな突風が吹くか、

といった、風圧を調べたいと考えている場所の条件を検討して導きだします。

 

今回のゴルフ練習場のネットの高さは20メートル以上であり、周囲にもあまり風を防いでくれるものもない…と仮定して、

速度係数を2.5としてみます。(ホントはいろいろ細かい計算をしないと出ない)

 

とすると、風速40メートルのときに、ゴルフ練習場の壁が受ける1㎡あたりの風圧力を計算すると、

 

0.6×40×40=960N/㎡

これに2.5を掛けると、2400N/㎡となりますが、風を受けるのは壁ではなくネットです。

なので、だいぶ小さくなります。

 

25ミリ角で2ミリの糸で編まれているとして、その1㎡あたりの密度を計算すると、1-(25-2)×(25-2)/25×25=0.15

なので、2400N/㎡の0.15は、360N/㎡となり、

ネットが受ける加重は1㎡あたりでいえば36㎏の重さを受け止める感じになります。

 

しかし、これが高さ30メートルで、柱間隔で幅10メートルの大きさとなると、

全体で受ける風圧力は、300㎡×36㎏だから、

10トン近い荷重が横から全体に掛かってきているといったイメージです。

 

もし、ネットを下に降ろすかしていれば、この帆の効果はないわけですから、柱自身が受ける風圧だけです。

その場合は、柱の面積が30センチ×30メートルなわけですから、0.3×30で9㎡に過ぎない。

9㎡×36㎏だと、柱一本あたり326㎏に過ぎません。

 

その風圧力を受ける柱の重さは、約10トンですから、風速40メートルといった風の場合には、

当然ながら自重だけでは転倒に対抗できない。

 

 

まず、ハシゴ状に組まれた柱の内側の鉄骨の基礎が浮き上がってしまったんだと思われます。

そして、外側の一本だけで踏ん張りきることが出来ず、転倒したと考えられます。

 

 

この足下のところをよくみるとわかるんですが、浮き上がりを抑えるためには、

鉄骨の根本が充分に基礎とつながって、基礎と杭がしっかりつながって、引き抜きを抑える構造になっていないとダメなんです。

 

 

そのためには、鉄骨の柱の根本はこうなっていなきゃいけないんです。

 

ガッチリと、基礎と杭がつながってなくてはダメ。

柱の何倍もの太さと厚みの「フーチング」という足がないとダメなんです。

 

 

 

それが、今回のゴルフ練習場の柱の根本はどうだったんでしょうか…

 

 

見てきました…

 

 

えっ?

 

 

 

ええーっ!!

 

 

小さ!

 

 

 

この四角いの独立基礎にもなってないじゃん…深さも足りないし…

 

 

 

ちょっと呆然としました。

 

 

 

 

そのときの写真をどうぞ

 

 

 

全部、なんの抵抗もなく、足上げちゃってます。

 

 

 

引き抜きに抵抗した後すらありません。

 

これは…全然、ダメです。

 

 

なんで、こんなことになっているんだろうか?

 

そして、なんで、この住宅地側だけが転倒しているんだろうか…と考えているうちに、

 

あることに気付いたんです。

 

つづく

 

千葉でゴルフ練習場が倒壊!の現場
千葉でゴルフ練習場が倒壊!の現場②

千葉でゴルフ練習場が倒壊!の現場④


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