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頭文字I(イニシャル・アイ)の建築家①、井上洋介の巻3

井上洋介さんの「梨園の家」を見に行ってビックリした、の続きです。

 

いまどき珍しい、平屋で瓦屋根をフィーチャーしているデザインだったというものですが、

一見、昭和の巨匠建築家のテイストを踏襲していますが、それだけではないよ!という解説です。

 

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この家は、いったい何造なのか?です。

何造というのは、木造、鉄骨造、コンクリート造(我々、建築専門家はRC造といいますが)といった、建築の構造種別のことです。

 

井上さんはですねえ、下北沢の家もそうでしたが、「何造か分からない」んです。

 

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木で作ってあるから木造かなあ?とも見えますし、

その木を支えている鉄骨があるから鉄骨造?

でもコンクリート壁があるからコンクリート造でしょ?と

 

まあ、建築専門家以外の方からすれば、そんな区分けとか、丈夫で快適で格好良ければ、別にいいんで…

といったところでしょうか。

 

しかしながら、我々はそこを見る。

この建築は何造なのか…

 

例えば、木造にしてはずいぶん大きな空間だなあ…とか、

鉄骨造にしては揺れないなあ、断熱しっかり出来てるなあ…とか、

コンクリート造にしては開放的だなあ、明るいなあ…とか、

 

それぞれの構造方式に得意不得意、得手不得手があるのです。

 

日本の木造住宅は木の肌合いを表現したり、窓を大きく開けたりするのは得意ですが、耐震上の壁をキチンと確保しないといけません。

鉄骨造は骨組みだけで耐震性も高く開放的な空間を作れますが、震動や防音や断熱はちゃんと配慮しないといけません。

コンクリート造の壁構造は耐震性や防火性能は高いですが、窓や出入り口の位置のバランスや結露や換気計画が重要です。

 

といったように。

 

同時にコストの要因も大きく違い、木造<鉄骨<コンクリートの順です。

 

また、建築許可を受けるときも、構造種別を木造、鉄骨、コンクリート造ごとに申請します。

そうでないと、許可がなかなか下りない。

役所や審査機関も日頃から一般的な決まったルーチンで仕事したいですから、

木造、鉄骨、コンクリート造ごとに明確に仕分けられる物件の方を好みます。

 

しかしながら、本当は建築の用途目的や機能性や周辺環境に合わせ、適材適所で構造方式を採用する方が望ましい場合もあります。

そのような形式の建物、構造方式が異なるものが同居する建築、それらは「混構造」といいます。

 

建築の技術が進捗して、この「混構造」を考える建築家が、かつてはたくさんいました。

適材適所で構造を使い分けようよ、というもので、

住宅建築でそれに熱心に取り組まれて多くの名作をつくられた巨匠として宮脇檀(みやわき まゆみ)さんが有名です。

 

有名っていうか、昭和の日本の建築家像を体現したヒーローの一人だと思います。

 

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ある時期、メディアに登場する建築家としては、黒川紀章さんと宮脇檀さんが二分していた時期がありました。

知ってて当たり前、建築家としてだけでなく、知的な文化的なライフスタイルの提言者であり実行者。

爽やか&ダンディ、アート&フォークロア、社会批評家&ものづくり、

建築事務所の経営者であり家事をこなす主夫としての、立場を実践されたりもしてました。

建築系雑誌にとどまらず、生活・文化、ファッション、料理、婦人誌にもエッセイや記事が掲載され、

多くの人々が、宮脇さんに家を依頼することで、何か生活のすべてが一変されるような、夢を抱いていました。

 

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宮脇さんが住宅設計に取り組まれていた時代は、まさに日本の高度成長期でした。

特に、東京はオリンピックによる都市改造によって、この頃に作られたインフラが現在もその都市の維持活動に貢献しています。

主要な幹線道路、高速道路、鉄道、地下鉄との延伸が続き、都内の都心部だけでなく、

私鉄沿線の山や森や畑や商店街や路地奥の長屋までが新築住宅として開発されていきました。

 

この人口変動グラフを見ていただいても、昭和40年代の巨大な数の人口流入がわかると思います。

20年間に東京、大阪、名古屋の大都市圏に50万人が流入し続けています。

しかも東京に30万人ですから、600万人もの人々が東京に移り住みました。

なので、それらの人々の当面の住まいとしての賃貸住宅、その後、上京から10年もすれば、

結婚したり家族構成も変わり住宅を持とうという人達も増えてきます。
ただ単に住めればいい、というものではなく戦後の社会的変化やカルチャーの中で、

それまでの大家族中心の家ではなく、核家族と呼ばれた新しい家族像が誕生します。
 

その時代に、そうした住宅需要を背景にたくさんの建築家が生まれたのです。

その中のヒーローの一人が宮脇檀さんです。
 

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逆に現在の人口動態を考えれば、住宅建設の需要はピークの5分1くらいしかないということですが…

現代の日本の建築家が業務を続けていくのがなかなか厳しいのは、そういった事情もありますね。

 

そんな宮脇さんが一貫して住宅作品につけられていたのが「ボックス(箱)」概念です。

たとえば、こんな家を作られていました。

 

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▲急斜面にコンクリートのボックスをめり込ませた「ブルーボックス」

 

 

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▲コンクリートの箱型建築の中が木造の入れ子になっている「船橋ボックス」

 

宮脇さんは何をやろうとしていたか、というと

 

当時、都市化が進む日本中は、いたるところで環境の変化が起きていて、

例えば、

眺めがいいからそこに家を建てようとしても、数年後には目の前にビルが建ってしまうかもしれない。

 

裏山に緑が多いから自然を身近に感じながら暮らせると思っていても、山が削られて宅地化するかもしれない。

 

商店街はみんな仲良く、祭りもみんなで盛り上げてずっと住み続けたいと思っていたら、神社ごと地上げされてしまうかもしれない。

 

つまり、周囲の都市化の波の中で、翻弄されることのないような住生活を獲得しよう、

周辺が開発によって変化しても、隣地が見知らぬデベロッパーによってマンション化しても、

自分達家族の生活環境を守り抜く砦のような住宅にしましょう、といったことです。

 

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意地でもここに住んでやる!でも肩の力を抜いて、しなやかに、という都市住宅のモデルを作ろうとされました。

その防御のための強靱なコンクリートの箱を提案し、そこに光や通風をいかに取り込むか、

楽しく快適に暮らせる家をいかに実現するか、そういったことに心を砕いた人、それが宮脇さんなんです。
 

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そのため外部にはコンクリートでバチっと閉じる、でも内部に光や風は入れる、人が触るところは木で作る。

そういう考えですね。

そして、建築の構造体はコンクリートの箱型でガッチリ強くする。

 

一戸建てではありますが、今で言う、マンションのスケルトン内装みたいなものかもしれません。

 

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この中を木造で仕切っていくというわけです。

 

で、話しは井上さんに戻るのですが、井上さんの「混構造」は、そんな風に外箱はコンクリートで内箱は木造とか、

下はコンクリートで上は木造とか、明確に分けてありません。

マジで、混じってます。

 

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混じるどころか、コンクリートの壁が矩形を成していない。

RC壁構造なのに、なのか?壁が立体的に結びつけられていないんです。

 

建築ツウなら、真に建築を分かっていれば、

ここが、

えええっ!って驚くとこです。

 

つづく

 

 


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