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本年度のマンガ学会大会では「SOIL」

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おかげさまで、本年度の
日本マンガ学会第16大会で研究論文発表をします。
日程:2016年6月25日(土)、26日(日)
場所:東京工芸大学 中野キャンパス(東京都中野区本町2-9-5)

マンガの背景空間におけるニュータウンについてです。

ニュータウンがもはや必ずしも幸せな未来を暗示していないということをマンガの中で分析します。


発表趣旨
マンガ背景空間における住宅地の効果とその意義について考察する。
作品世界において家庭をその背景空間におくことは主人公の性格、家族背景の描写におけるリアリティを獲得するうえで有効であることはいうまでもない。多くの作品世界において普遍的家族像というものが設定されてきた。顕著な事例としては昭和40年代以降の少年マンガに設定された一戸建て核家族の形式である。当時の世相に応じ、地方出身者が東京をはじめ大都市に定住し、それまでの我が国の家庭に見られたような祖父母を含めた多世代の大家族制から、夫婦と子供だけによる世帯が一般的となったことと期を一にしている。


今回採り上げるのは、カネコアツシ先生の『SOIL』です。



本稿では、カネコアツシによる「SOIL」をニュータウン空間の分析題材として採り上げ、これらマンガにおけるニュータウンの空間の意味と意義についてを検証する。

そもそもニュータウンとはどのように定義されているのであろうか、ニュータウン(new town)はそのまま「新しい街」と捉えることが出来るが、19世紀イギリスにおける産業革命による労働者の都市部への移入に対する生活環境の受け皿として開発された街に端を発する。その後は都市への人口増加に伴い、交通機関の発達と平行して都市の過密化への対策として郊外に新たに建設された新しい市街地のことである。

近代化と平行して世界各国に見られる現象であるが、我が国におけるニュータウンは戦後の高度成長期に、イギリスの「田園都市計画」、アメリカの学者ペリーの「近隣住区論」等の影響を受けて始まった。特に日本のニュータウンは、都心への通勤を前提としたベッドタウンとしての性格が色濃い。日本におけるニュータウンの定義については、国土交通省がニュータウンの把握を目的に、以下の3つの条件を満たす住宅地として開発された地域をニュータウンと定義している。

1.1955年度(昭和30年度)以降に着手された事業。2.計画戸数1,000戸以上又は計画人口3,000人以上の増加を計画した事業で、地区面積16ha以上のもの。3.郊外での開発事業(事業開始時に人口集中地区(DID)外であった事業)。そのうえで「全国のニュータウンリスト」を作成している。

「全国のニュータウンリスト」によれば、昭和30年からの60年間で約2000カ所あまりのニュータウンの計画がある。そのうち昭和40年から昭和50年の開発事例が1014カ所と半数以上を占めており、大阪万博が開催された昭和45年がまさにピークである。これは我が国の大衆文化の揺籃期から発展期、少年マンガ誌の発刊時期とも一致している。当時のマンガ作品、特に藤子不二雄作品を代表とする少年マンガの多くに典型的に見られた核家族家庭の成立には、この時代のニュータウン開発に依拠した「新しい街」という背景が存在していたということである。

「SOIL」では、このニュータウンに潜在していた数々の問題点を徐々に顕在化する手法をとる。日常生活の中に埋もれていた個人の抑圧された願望とニュータウン開発の過程で消去し埋没していたはずの歴史的事件がリンクする。普遍的で健全であるはずの現在の日常が、特殊で異様な過去の非日常的存在に浸食されていく。まっさらで無個性で抽象的に描かれていたはずの街や家庭が実は元々その場所に存在していた事象の大きな影響下にあることが具体的に示されていく。その過程で、ニュータウンとそこに依拠していた各家庭や家族関係やコミュニティが徐々に崩壊し、逆に古い村や自然や呪術、個人的な発露といったものが、地霊(ゲニウスロキ)の力を借りて顕わになっていくのである。

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