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国立競技場の解体工事が決まらない理由 3

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国立競技場の現況基礎と杭状況について考察してみたわけですが、
フーチング一箇所あたりの予想杭状況から

下図のような姿を想像してみれば


国立競技場の解体工事の困難さというものがご理解いただけたかと思います。

もう、なんべん言ったところできりがないのですが、新国立競技場計画の有識者たちはおそらく、建築の本当の知識が不足しているわけですから、こういった建築の技術的問題を予想することも指摘することもできなかった。
そんな人達をアドバイザーに選んでしまったことを、そろそろ認めて、悔やんで、己の失態を噛み締めてほしいと思います。

で、ここからが実際の解体工事会社が決まらない理由なのですが

私の推理では
なぜ、解体工事入札が混乱し続けているかというと、

1.発注者側とその有識者に建築解体の知識がないために
2.何をどこまで解体していいのかが分からない。
3.よって解体部分と解体要領の指示が出されていない。
4.結果、解体工事業者の側もあてずっぽうで入札している。

です。

1.はこれまでの解説で証明されたかと思います。
2.ですが、このどこまで解体していいのか?については新国立競技場の設計が完全に出来上がっていないから、だと思われます。

といいますのも、これまでの解説により皆さんは理解できていると思うのですが、杭をすべて引き抜こうとした場合に、各既存の杭の本数と種類と打ち込み深さを把握できないと、見積もりができないんです。

杭の長さが予想と違っていたら、大損します。
抜き取り中に不測の事態が起きたら、大損します。
場所の問題でいきなり一本づつ重機をセットすることは出来ません。
杭の抜き取り後の処理方法により見積もり金額は大きく変動します。

おそらく、適切な解体工事メニューを示さないで、通常の木造住宅や小規模ビルに適応するような早見表、建設物価指数とかを用いた簡易な目安「坪単価いくらいくら」でJSCは入札価格を決めているからだと思います。
それは無理もありません。JSCは建築の素人です。ところが彼らが頼るべき有識者が的確なアドバイスの出来る人達ではないからです。

で、もし杭の全抜きとりをやろうとすると、地下構造部分だけで国立競技場解体工事予算の70億円を食ってしまう可能性もあります。

構想日本 代表の加藤秀樹先生によれば、JSCの国立競技場解体予算として200億円が計上されているらしいのですが、実際に解体工事にあてがわれているのは70億円でしかなく、埋蔵物調査費用が4億円、JSC移転関係諸経費として126億円なんだそうです。

「国立競技場解体予算を徹底解体しよう。」加藤 秀樹 | 構想日本 代表
http://bylines.news.yahoo.co.jp/katohideki/20141003-00039651/

なんか変ですよね。

たとえば家を新築するとして、新築住宅の工事費が2000万円。
まあ、これは分かります。
既存家屋解体費用200万円だが、実際は70万円ということにして、父親の書斎の移転諸経費130万円なり!とか隠しているのがバレると家族はその費用配分を疑うんではないでしょうか。
「お父さん!その130万円何に使うの!」と嫁が怒り出すと思います。
だって家の中にお父さんの書斎コーナーつくってもらえばいいわけですから。
もしかして、前の転勤先の福岡で中洲の近くのどこかに秘密でワンルームマンションとか借りてるんじゃないかしら、とか疑われます。

まあ、そのような不透明な予算配分をしているらしいのですが、
それでも彼らとしては解体費用を決めないことにはどうにもならないわけです。

で、おそらく、費用リスクのある既存杭の引き抜きをしないで、杭残置による工事を検討しているのではないかと思うのですが、

これはこれで難しいんです。

建築の構造って難しそうですが、その基本は積み木です。
要は、上のモノが下のモノに乗ってればいいんです。

上から下まで垂直に力が伝わる状況、重力だけなら(これを専門用語で鉛直荷重といいますが)、積み木自身がつぶれない限り単純に積み重ねるだけです。

ヨーロッパの大陸側のように、地震のない安定した地盤に乗っかっているなら、アクロバットなことしない限り積んでればそれでOKです。

以前その辺の地盤の違いについて考察してみましたよね。
参照:「進撃の巨人」における建築的考察6


そこに地震や風によって水平力が加わるから建築がつぶれるのです。



ただ積んだだけの昔のレンガ造の壁とかが壊れるのはそのためです。
で、この建物の水平力への抵抗のために、さまざまな工法、金具や素材が生まれたのです。

基本は、木造でも鉄骨でもコンクリート造でも
横から押されても外れたり折れたりズレたりしないように、なんです。

そういった構造強度基準の改正が日本では何度もおこなわれて、地震に強い建築、地震に強い街づくりが出来上がっているのですが、

特に近年では、昭和56年の新耐震基準によって大きく耐震性能が変わりました。
これは昭和53年の宮城県沖地震を踏まえてのものです。

このときに、前後の近代化した鉄骨やRC構造のビルやマンションでの杭が折れたりの被害が続出し、それまでの、「杭は硬い地盤まで鉛直荷重を伝えればいい、沈み込みだけ止めればいい」といった判断基準ではダメなんじゃないか?という意見が出るようになったんです。

それでも、あくまで建設省の通達で一定規模以上の建物に、杭の水平抵抗力を検討するよう行政指導がでているだけで法改正にはいたりませんでした。


その後、平成7年に阪神淡路大震災が起こり


そのときの被害状況をふまえて、平成12年の基準法改正で構造計算が必要な全ての建物にたいし、杭の水平抵抗力を検討することになったんです。


結果、以降の新築建物では杭も水平力を受けても大丈夫なように考えなくてはならなくなりました。


地盤と建物との関係の中で、杭も横方向にフラフラしないように検討しとけよ。となったのです。


結果。
ますます、国内にあるビルのほとんどが古い杭のままではダメで、古いビルを取り壊しての新築時には引き抜くか、引き抜かないで場所をズラして新規杭を打つしかない状況になり、解体して土地を売り買いするときに、この既存杭の処置は費用面でも問題になり、特に狭い敷地だと引き抜こうにも重機が中に入れない、新規にズラして打つスペースもない、とかいった問題も生じてしまったのです。

そこで、10年前くらいから既存杭のそのまま利用、既存杭を残したまま新規構造を考えたり建てられるようにする方法が検討され始めました。

これは国土交通省でも積極的に研究を奨励しています。


じゃあ、国立競技場も既存杭を残して新築できるのか?って?

今の新国立競技場計画では出来ませんね。

引き抜くどころか、もっと大変なことになるんじゃないかと思っています。

なぜ既存杭を残すことができそうもないか、を引き続き4で解説します。



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