北海道百年記念塔が壊されそうという話題なんですが、
壊される理由は、「老朽化」なんだそうです。
またまた、出た!「老朽化」。
便利な言葉だなあ、老朽化。
これさえいえば、壊してもいい、と。
壊して建て替えるときの大義になる、と思っている。
あのですね、老朽化したら壊す、は大義ではないんです。
正しいのは、老朽化したら直す、が正義なんです。
これは、50年以上前の老朽化している車の話ですが、
https://forride.jp/car/bmw-507
こういう状態だったものが、
フルレストアされて、蘇りました。
最近は、ネットの番組でも旧車を直してしまう人気番組もありますよね。
ネットフリックスの「ラストバレー レストーラー」とか
ディスカバリーチャンネルの、「名車再生!クラシックカー・ディーラーズ」とか、
どちらもですね、見始めると途中でやめられない。
私が旧車好きというのもあるんですが、
パッと見、ボロボロの昔の車を、主人公達が丹念にチェックすると、
これは、イケる!直せる!というだけでなく、
その時代時代の自動車のデザインや機構、それを運転するときのフィーリング、
そういった車愛にあふれた人達が登場して、車への蘊蓄を語るだけでなく、次々と起こる問題を解決し、
最後は、見違えるように再生された車を見るのが楽しいのです。
「老朽化」したから、捨てた人がいる。
「老朽化」したから、直す人がいる。
そして、その車が誰かに幸せをもたらす、そういうロマンが詰まっています。
つまり、老朽化は現象、だから老朽化を止めることは出来ない。
今、乗ってる車も、住んでる家も、使ってる道具も、毎日、少しづつ老朽化していく。
また、使わないで仕舞っていても老朽化は進みます。
老朽化は避けられない
人の老朽化も同じです。
病気なったり怪我をしたり、老朽化したら殺すんですか?
そうじゃないですよね、医者に行ったり薬を飲んだり、養生して直しますよね。
だから!
「老朽化」は、建物を壊す理由にはならないんだよ。
で、百年記念塔はどう老朽化してるんだ?と調べてみたところ
こういう記事がありました。
北海道建設新聞 2020年6月24日
https://e-kensin.net/news/129164.html
風雨にさらされた外壁は、波打ちや腐食による穴あきが確認できる。
また、18年の台風21号では長さ195cm、幅21cm、重さ9㌔の部材が記念塔中5階から立ち入り禁止エリア内に落下。
下地が腐食し固定金具が外れたのが原因だった。
道は今後50年間の維持管理経費として、展望室まで立ち入り可能とする場合は28億6000万円、モニュメントとして維持する場合は26億5000万円、
解体する場合は4億1000万円と試算。一般利用者の立ち入りを可能にした場合は、耐震化経費が必要になる可能性もあるとした。
こうした見通しから「解体やむなし」と判断。
老朽化で錆びているから、やむを得ない、そう書いてありますね。
一方、同じ新聞社の一ヶ月後の記事なんですが
北海道建設新聞 2020年7月29日
https://e-kensin.net/news/130082.html
外板として使用されているコルテン鋼板について、安定したさびの状態で100年以上持つ優れた材料であることを取り上げ、
さびは劣化ではないと説いた。道が13mの高さから落下したとする部材についても鉄製ではなく、後付けされたステンレス材の水切り板であり、
適切な保守点検で落下防止できた可能性に言及。
こちらの記事では、安定した錆びの状態で100年以上持つ、そう書いてあります。
一方では錆びているからダメ、
一方では錆びているから100年持つ
これはどういうわけなのでしょうか?
それはですね、この塔を壊してしまいたいという人々が、
素材知識のない一般の方々をうまく騙して丸め込もうとしているからなんです。
では、この北海道百年記念塔は、老朽化したから錆びているんでしょうか?
違います。
この塔は出来立てホヤホヤのときから錆びていたのです。
このように
なんと!工事中の1969年から錆びています。
なぜかというと、この塔に使われている鉄は、錆びるけど錆びない鉄、その名はコールテン鋼という素材で出来ているからなんです。
雨風が当たっても錆びない鉄の開発は1910年頃から始められており、
アメリカのユナイテッドスチール社が商品化にあたりCOLTENと名付けたために、一般的にコールテン鋼と言われています。
気候に耐えるという意味で、対候性鋼と呼ばれます。
鋼鉄に耐候性元素の銅、ニッケル、クロムを添加して、鉄の弱点である錆びを自ら作り出しながら、一定状の錆を進行させないという、
大発明です。
防錆塗装なしで長期間の耐候性が保持されるので、定期的な塗り替えの必要がなくなり、その耐用年数は適切な環境下では200年以上とも想定されています。いわば、環境負にも優しいエコ素材ともいえます。
そこで、厳しい環境下にあったり、メンテナンスがしずらい高所の橋梁とかに使われ始めました。
表面の錆びは内部の鉄の腐食を保護するように働き、以降も大気中の水分を吸収し乾湿を繰り返しながら生成していくことで、徐々に変化します。
初めはいわゆる激しい錆び色の明るめの赤褐色ですが、経年変化によって 茶色から暗褐色と表面の色調が少しずつ変化していくという、ちょうど、茶道の茶碗の貫入が経年で育つように、室内の柱や梁があめ色に変わるように、神社の柱や板が灰褐色に枯れていくように、時代が付く素材、まさに日本人好みの素材なのです。
だから!錆びているんだよ!
老朽化で錆びてるんじゃねえんだよ!
このコールテン鋼を建築作品に取り入れた名作があります。
https://twitter.com/mori_arch_econo/status/908587893383245824
記事中で紹介されてるディア・アンド・カンパニーのイリノイ州モリーン本部は、アメリカ建築界の巨匠エーロ・サーリネンによって設計されました。世界最大の農業機械メーカーを、自然と工業の融合を象徴的に表現したコールテン鋼という錆びた鉄材を全面的に使用してデザインされてます。 pic.twitter.com/2VOPbjoJEb
— 建築エコノミスト森山高至 (@mori_arch_econo) September 15, 2017
その、エーロ・サーリネンの遺作、ディアカンパニー社屋です。
これが、コールテン鋼を全面採用してデザインしていました。
どこか、日本の木造建築を思わせるようなたたずまいですよね。
錆びない鉄という素材の特性、自然の中でだんだん朽ちて時代が付いていくという、日本の美意識みたいなものを感じます。
ディアカンパニーの完成が1963年ですが、
このコールテン鋼という素材が日本に入ってきたのが、1959年なのです。
なので、北海道百年記念塔は、当時の最新鋭の技術を取り入れたものなんですよ。
作品が発表されたとき、設計者の井口健さんはこうコメントしています。
北海道百年記念塔は明治2年『蝦夷地』を『北海道』と改め、開拓使が置かれて以来昭和43年で、開港100年を迎え、
記念式典が催されたが、その記念事業の一環として記念塔の建設が企画され、公開設計競技により設計者およびデザインが決められた。
設計に当たりデザイン上意図したことは、北海道開拓に尽された先人の労苦に感謝の意を表明し、
さらに未来の輝かしい郷土を建設しようとする遊民の決意をいかに造形的に表現するかという点にあると考えた。
デザインするに当たって求めたイメージは北国、北海道の厳しい自然にうち克つたくましい生命力を造形的に追求、
特に未来性といった意識を強く打出したいと考え、重厚にして動的なデザインを追求した。
北国の顕著な季節の変化特に冬期の雪景色に代表される中で、その雪の中に立つ塔のイメージを強く求め、
主たる素材として耐酸性高張力鋼板を裸使用とした。
塔の未来性と生命力といった点が、耐酸性鋼の素材としての性格の中に見出されるという大きな魅力があった。
また記念建造物としての永続性、夏は緑の空の中に、冬は雪の純白との対比・・・といった色調、コントラストも大きな魅力である。
外装の耐酸性鋼板に対しルーパーはメタリックでシャープな感じを追求、耐酸性鋼の初期錆流出の付着を極力さけるよう考慮し、
ポンデ鋼板に、フッ素系焼付樹脂塗料を採用した。
実施設計において構造は柔構造として設計、外板を取付けることによって塔体の剛性を高めないようにディテールを研究、
パネルジョイントはすべて、フリージョイントとなっている。
外装パネルの取付けは、溶接にボルト併用で、ボルト接合部はルーズホールとし、緩衝材としてフッ素系のフィルム状樹脂板を用いた。
特に留意した点は、耐酸性鋼板の裸使用のためその持っている問題点を極力さけたいためのディテールの追求にあった。
初期錆流出によるルーバーおよび池の水の汚染防止として、単独の排水溝を周辺に設けた。
さらに塔壁面には多くのパネルジョイント、エキスパンションおよび凹凸部を付するが、陸になる面のパネルをすべて、逆勾配の状態とし、
プール状になる箇所には排水溝を設け、塔内部に集水し、竪樋を設けた。
外部水平梁の下面など日照のまったくない面は耐候性鋼の性質上、安定した酸化皮膜が得られず、錆か板状になって落下する恐れがあるので、雨水が回り込まないようなディテールとした。
つまり、設計者の井口さんも初めから、この建物が100年以上ずっとこの北海道の台地に建ち続けることを意図して、
この錆びるけど錆びない鉄板、コールテン鋼を採用されているわけです。
だから!錆は老朽化じゃないの!
老朽化すれば直すべきだろう…と思う所以なのです。
つづく