石井さんの「鎌倉の家」についての解説のつづきです。
この家は、「辻堂」のごとく、シンプルかつピュアな始原的な構成を目指したように見えます。
周囲は自然峡谷そのままの状況で緑に囲まれています。
ですから出来れば、家から見る景観は出来るだけ活かしたい…
そのため、屋根の下のガラスは全方位開放されています。
それを実現しているのは、以下のようなコア型のプランゆえです。
外部に向かって壁を設けないように、窓の必要のない収納や水周り等を中心に集めてある。
いわゆる「センターコア型」という、高層オフィスビルで使われるような手法ですね。
しかしながら、この家は方形屋根を採用してあるように、正方形プランですから、
幾何学的にも、どうしても中心性、対称性、象徴性が生じてしまうんですね。
もっと大空間の建築なら機能に応じてまた仕切りを入れていけばいいのでしょうが、
住宅規模だと、あくまで中心性に拘束されてしまうと、機能に応じて柔軟に対処する自由度がなくなります。
そこで、石井さんはどうしているかというと、セントラルコアをズラしてあります。
そのことによって、ぐるっと回れる回廊型の間取りでありながら、
広い部分と狭い部分を、寝室や書斎、お風呂といった機能要求に当てはめながら、
すべての部屋が外の景色と繋がるようになっています。
下の写真で黒い仕上げの壁がセントラルコアです。
コアと外壁の間隔が広いところが寝室、狭いところが廊下、中間の広さの部分にお風呂や水周りになっています。
特に圧巻は、この十和田石で作られた床に堀り込まれたお風呂です。
露天風呂感覚、窓は開きますから露天風呂にもなる。
実は住宅において、通常、お風呂という部屋は使用時間の割りには閉鎖ブースを形成してしまうため、
使用頻度VS面積配分、使用頻度VS閉鎖費用、で考えてみたときに、非常に割高なんです。
それを、この家では、回遊性をもった移動空間の中に設置し、尚且つ視覚的な邪魔になる湯船を床に掘り込み、
さらには庭と繋げてリゾート空間化してしまうという…一石二鳥、三鳥、四鳥くらいに凄いアイデアです。
物理的にはコストダウンしながら、空間的にはグレードアップ、ゴージャス化しています…天才だ、石井、と思いました。
で、いよいよ、4周がガラスで開放されている2階に上がります。
やはり…
というか、予想どおりのネイチャービューですね。
しかも、全周です。
そして、床は正統派和モダンとしての琉球畳(縁なし畳)。
そこに、イサム・ノグチやら豊口克平やら、巨匠のみなさんが集っておられる。
この空間、外観から予想する内部空間を大きく超えて、
方形が醸し出す建築的制約というか、幾何学が支配する空間の掟を外そうとする石井さんの意図がよく現れています。
それは、中心の喪失と架構の消去です。
通常の建築構造のセオリーを、良い意味で思いっきり裏切っています。
つづく