建築家の原田久さんとこにご訪問させていただきましたよの続きです。
【 あれやこれやと建築日記 】 原田さんのブログ
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で、私が興味をもった「老津の家」なのですが、
老津というのは地名です。
紫式部の歌
「老津島 島守る神や 諫むらん 波もさはがめ 童べの浦」
にちなむそうですが、元々は大津といったそうです。
徳川幕府を開いた家康は元々松平氏といいましたが、その松平氏の居城
が三河大津城でした。
大津は滋賀県にもありますが、その意は大きな港ですね。
津は船着き場を示し港のことです。
この老津(おいつ)っていう字面や語感にもなにやら名作の予感がしてたんです。
三河の地は海に向かって平野がず~っと広がって空が大きくて何かスケールが雄大でした。
豊橋から老津に至る道もすごくよかったのですが、写真撮りそこねてしまいました。
というわけで現地です。
平野の中にある小高い台地に建物があります。
一見すると、周囲よりもちょっとオーバースケールな片流れのモノリスに見えますが、、、
ジャーン、反対側の南側正面は力強いオーバーハングの建物なんですねえ。
磯崎新さんの初期作品「岩田学園」とか、
名古屋の青島設計におられた塚原守さんの初期建築みたいな
構造表現主義建築のようでもありますね。
造形と素材が噛み合った具合は、マイケル・ロトンディとか、
フランクリン・D・イスラエルのようでもあります。
とまあ、外観の具合もいいんですが、この建物の特筆すべきところは!
内部の不思議なつながりなんです。
玄関(この写真の足場が組んであるところ)から入ると、、中に土間がある。
外から入って、さらに外がある感じ?昔の家のかまどのある土間みたいな空間です。
その土間からさらに上に上がる。
さらに上がる。
この階段の吹き抜けに取り付くように和室が噛んでいたりして
リビングからの見返しはこんな感じなんですよね。
なんだ、この立体的な迷路は!
で、このレベル差と導線は以前一度だけ体験したことがあるな
と思いだしたのですが、それは、明治村にある東松家住宅です。
東松家住宅
この東松家住宅はですね。まあ私が体験した建築の中でも白眉。
商家が主人と正客と他の家族との導線を一見3階建ての建物の中に
たたみこんであり、ものすごく複雑な空間が内部に展開していて、
リアル、エッシャーの騙し絵みたいな楽しくてかっこいい民家なんです。
今までみた日本の住宅で一番良いものです。
原田さんにも言いましたが、この老津の家はこの東松家住宅の感じなんですよ。
しかも、もっと面白いのが、撮影失敗してこの写真ではちょっとわかりづらいのですが、
奥の壁面に見える、木のボツボツ。
何かの彫刻作品かな、、と思ってたんですが、、
これは、クライミング用のホールドだったんです。
つまり、この家は通常の階段の上下動に加えて、吹き抜け内に設けられた
クライミングホールドをボルダリングで上までショートカットでのぼってしまおう、
という意図で作られているんですね。
いろいろなレベルで床や部屋が様々な素材と広さで準備されており、
すべてがキャットウォークみたいなんですが、
いってみれば「等身大猫の家」です。
結果として、実際の物理的広さ以上の広がりだけでなく冒険可能な立体迷路のように
家の中に垂直方向への連なりをもった迷宮が出来上がっているというわけなんです。
リビングから望む景色、眼下に広がる甍の波
と、いうわけで原田さんのブログで以前からなんか気になるな、、この家は。
という私の勘は大正解で、非常に面白い楽しい家でした。
やれるんだ!東松家住宅!というわけで大収穫でした。
キャンチレバーで浮かせられた箱の中がジャングルジムになっているとは!
ワンルームとも個室の連なりとも違う、ツリーハウスが集まったような家です。
当日はお引越し前でお施主さんにもお目にかかれまして、
ホント無理をいってご訪問させていただいてよかったです。
しかも、建物は完成しましたが外構にもいろいろな仕掛けと構想があるそうなので、最終的な完成形はまだまだ先なんだそうです。
建築専門誌の編集者さん、この家は、絶対取材した方がいいですよ。