建築家の横河健さんからも今回の新国立競技場問題における内藤廣さんの文書について、ご意見が発表されていることを知りました。
あの横河さんが!と意外な印象でした。
どちらかといえば、谷口吉生さんと同じようなスタンス。
建築家は作ったもんがすべてだから、、といった方です。
参考:
アンドウ?イトウ?本当に凄いのは谷口吉生
谷口吉生さんの新作レポート
実は、僕は20代前半の建築家修行時代に斉藤裕先生を通じ横河さんとは身近に接しさせていただいた時期がありまして、、
非常に印象深いエピソードがあります。
今から24~25年前のことですが、当時わたくしが在籍しておりました斉藤裕建築研究所で軽井沢で好日山荘という、木造でありながら曲面を大胆に使い、造船所で三次曲面のアルミ加工を施したデイビット・スミスの彫刻みたいな建築を工事中のころのことでした。
斉藤先生の数少ない理解者で親友である建築家の横河健さん椎名英三さんを招待し星野温泉で宴会をしたときのことでした。
横河さんは終始にこやかで、椎名さんは宴会番長として、
特に斉藤裕先生は外向きには無茶苦茶厳しい雰囲気で通っておりましたので、
我々所員が屈託なく斉藤先生と軽口を叩いたり平気で突っ込みを入れたりしている姿に非常に驚かれて、
「なんだ君たち、斉藤先生怖くないの?」とか聞かれたりして、
「いや、仕事上は怖いですけど仕事以外のことで理不尽なこと言う人じゃないんで、オフはこんな感じっすよ」と大変盛り上がっておりました。
宴もたけなわ、横河さんが明日はどうするの?と尋ねられ、
「当然朝一から現場っすよ俺ら都内の案件でも朝6時に現場行って事務所出社っす」
と息巻いてましたら、
横河さん「よし!じゃあ俺も明日行くぞ現場6時!」と
そのまま明け方まで温泉入ったりして騒いで目が覚めたら7時前!
慌てて現場行ったら、朝靄の中、二階の軸組の上に立つ人影が、、
マジ?横河さん!
「うん?君たち遅いな。薄明るくなる朝もやの中のこの建築は綺麗だぞ」と、
俺あんなに息巻いてて、結局寝坊したのに、、
横河さんカッケーと思ったものです。
そういう人です。
横河さんは、初期の住宅のころも緑の中に建築が埋まりすぎて目立たなかったり、現代建築の景観論に取り組まれたり、歴史的価値のある建築の保存運動に関わられていても表立ってパフォーマンスしない。
建築家フォーラム - 「現代建築は『美しい景観』をつくれるか~思想と手法から
有楽町日比谷地区のまちづくりと三信ビル保存に関する提案
「交詢社•伊藤委員会に参加して」• • • • • • • • • • • • • • • • • 建築家 • 横河健
そういう人だということを念頭において次のメッセージをお読みください。
横河さんの文章です。
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内藤廣さんのメッセージへ
新・国立競技場問題に対する内藤廣さんのご意見(反論)が掲載され、読ませていただきました。
この文章に少なからず落胆した諸兄も多いのではないでしょうか?
それはまず審査員としての反省がひとつもなかったことです・・・少なくとも設計条件(注)に対して、
無条件に審査に入ったとすれば、そもそもの立ち位置がおかしい。
(・・・でなければ、現在工事費を含めて縮小したから良いではないか? とする根拠が無くなる)
まずはご自分の反省から始めるべきだったのではないかと思うのです。
次に普段から環境についての発言 (問題意識)がないのに・・・今さら何を言っているのだ? との主旨が
述べられていることには呆れます。
景観、環境、ランドスケープについては多くの方々が・・・私自身にとっても1970年代から発言は続けていますし、
神宮の森に限っても、70年代の初めに個人的に神宮外苑の景観が、我が国では唯一と言って良い近代の都市景観・ランドスケープデザインが
なされている場所だと、私自身ある経験から気付かされることがありました。
・・・このことから20年以上の前のことですが、信濃町駅前の慶応病院・新棟(現2号棟)が新築され
絵画館前銀杏並木の景観を崩す(正面右奥に病院が大きく張り出すこととなり)事態になって以来、私は様々な場面の講演会ほか、
大学の受業でも取り上げています。すなわち、「景観(環境)とは、ひとつの合法的な建物によっても無惨な姿になるものだ」・・・
と自分で撮ってあるスライドで説明し続けています。
つまり、我が国とくに東京をはじめとする都市部では近代都市国家としてのランドスケープデザインがされている場所は数少なく、
皇居の周りと神宮外苑くらいのものなのです。すなわち何故か昔から天皇の周りだけは整備がされていて(京都しかり)、近代に入っての
都市景観に於いては一丁ロンドンに名高い丸の内。東京駅や皇居側・百尺規制による(今やこれも無惨)ものと並び、
神宮外苑の周回ランドスケープは英国のランドスケープデザインに習った近代遺産と言って差し支えないものなのです。
私は内藤さんの「今まで何もして来なかった」「問題意識すらなかった]と述べられていることに失望するとともに
腹が立ってきます。
次にザハの案について・・・内藤さんは一生懸命擁護されていますが、槇先生はじめ多くの建築家の意見では、
ザハのデザインについては何も問うていません。プログラムについての疑義ですからザハのデザインを擁護する必要も無いのです。
(また、このことは審査自体の経緯に文句を付けているのでもありません)
ただし、仮に市民からデザインの形態に疑問があったり、反対意見があっても、それは世界的に見て珍しいことではありません。
設計競技(コンペ)で勝っても市民の反対によって実施されなかった建築は数多くあり・・・市民の税金で作る公共建築であれば尚更です。
(なかにはザハ本人の例もあります)。
・・・これも民主主義国家の特性と行って良いのではないでしょうか?
ですから審査過程について守秘義務がと述べていたり、審査委員長の安藤忠雄さん以上のことは云えないと
おっしゃいますが、むしろ審査の中身のことより、そもそものプログラム策定者が誰で、どのような根拠によったものなのか?などなど
審査員としても本来公にすべきことがあるのではないでしょうか? つまり、「おかしなところはおかしいとして」今後明らかにして行けば、
内藤さんなりのスタンスに多くの方々の理解が得られると思います。
・・・安藤さんは「とにかく目立つ元気なものがエエんや・・・後は日建なり、日本の組織事務所の技術力で何とでもなる」
と言う程度のこと。こんなに反対が起こるとは考えていなかっただけではないのでしょうか?
内藤さんはご存知かどうか解りませんが・・・
(私は彼と別途ある事件を経験しています) 彼は関東を愛していません、(関東の建築家を憎んでいるほどです)
関東圏の美しい景観は私たちが守って行かなければなりません。
次に「一概に規模だけを問題視するのは早計です」とあったり、「日本を元気にする」・・・と云うくだりがありますけれど
・・・これらは問題のすり替えです。
規模については神宮外苑の「あの場所」に於いて・・・「近代日本を形づくった愛すべき希有な場所に於いて」は
と言っているのです。常識的に考えてみていただきたい・・・あの神宮外苑に8万人規模のイベントが月に一度はないと、運営が取れないと言われています。
(サッカーの一年に一度の大イベントである天皇杯決勝やラグビーの史上最高の入場者と言われた年でも6万人規模なのです)
8万人を呼ぶイベントと言えばロックコンサートくらいしかないのですが、神宮の森で毎月ロックコンサートですか?
(ですから、あの場所で15日の競技会をするのであれば、仮設の一時的な増築で良いのです。)
ザハのことでもない。解りやすい正義感でもない。さらには三陸と同調させる問題でもないと思うのです。
問題のすり替えをせず、真正面に捉えていただきたかった・・・。
これらが文章を読ませていただいて私が思ったことです。
建築家・横河健
日本大学理工学部
(注)設計条件の疑問
1) 巨大なプログラムの必然性について・・・
2) 設計者に神宮のランドスケープについての歴史及び周辺環境が知らされていない。
(内藤さんはじめ関東の建築家なら常識的に認識しているものでも)
このことは少なくとも審査員として疑問を提示すべきだったのではないでしょうか?
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以上です。
内藤廣さんのメッセージへ のページでは
建築家では、古市徹雄さん、元倉真琴さん、岩本秀三さん、遠藤泰人さん、浦田義久さん、篠崎好明さん、池上俊郎さん、宇野求さん、新井今日子さん、アルファキュービック創業者の柴田良三さんといった方々もこの問題について幅広い議論をされています。
より多くの方々が今回の問題を通じて、建築文化や街並み論、都市論、景観論に興味をもっていただき知識や思想を共有できるような機会になることを、心の底から願っています。
それこそが真の次のステップと考えています。
尚、この付録転載については森山個人が勝手にやっていることでして、横河さんはじめ関係者の皆様、建築家諸氏のみなさまとはなんの関係もないことを明記しておきます。