先日の「午後のまりやーじゅ」出演時にお相手いただいた、なぎら健壱さん。
フォークシンガーとしても有名ですが、街歩きの名手としても有名ですよね。
そんな、なぎらさんが書かれた、写真も撮られた、凄く素敵な本があります。
「町の忘れ物」 ちくま新書 です。
表紙の写真もなぎらさん、木柱に取り付けられた古い街灯です。
木造モルタル家屋の路地の隙間にひっそりと残っていたそうですが、
この写真自体がすでにひとつのフォークソングの詩になっている、
そんな感じですよね。
この本に出てくる写真とエッセイは中日新聞、東京新聞日曜版に、
2009年7月から2011年7月まで連載されたものを元にされているそうなのですが、
昔はどの町にも身近に見られたはずのものなのに、
いつの間にか消えた、消えようとしている、
そんなモノや出来事を街歩きのさなか
なぎらさんが、ハッと見つけたり、そういえば、、
と探し出して写真でご紹介されたものです。
で、出演時にサインしてもらいました。
達筆ですよねえ。
本の内容は、ドブ川、煙突、看板、木製ゴミ箱、牛乳瓶受、空き地、塀、
街灯、工場、荒物屋、銭湯、等々。昭和時代を懐かしむ感じなんですが、
そこは、都会っ子のなぎらさんですから、変に感傷に走ることもなく、
しごく淡々と、軽妙洒脱に、しかしながら鋭い社会批評精神をドライに飄々と
語っておられます。
表紙の裏に書かれている一文が、とってもなぎらさんらしいんですが
「・・・かつて町にあったもの。気がつくとなくなっていて、無くなったことさえ忘れてしまうもの。
それは二度と戻ってくることはない。
変貌をつづける町で、それに追いつこうとすればするほど、
過去はないがしろにされてゆく。
変貌に慣れっこになってしまったあたしたちが、心に留めておきたい風景。
なつかしいものたち。そのひとつひとつを、写真と文でつづる。」
とあります。
変貌になれっこになってしまったあたしたち、、
というところに考えさせられました。
確かに、古いものの中に残してほしいな、、というものがあっても
しょうがない、、とか、いつかはなくなるし、、とか諦めてしまっている。
特に街並みなんかは、新しくなればなるほど、ダメな雰囲気、いやな町
駅前再開発とか、ニュータウンとか、モールとかになって、
非常にがっかりさせられるケースが多いですよね。
とかく建築とか都市計画とか、そういった大上段からの物言いは、
大概において
「変革こそ命」「新規性こそ評価」「進歩は絶対」
とかいった大前提で語られていることが多いのですが、
建築や都市の中においても、
変わらないことが生活を豊かにする面も多いと思うんです。
これからは、建築や都市論においても
「変えない技術」「戻す技術」「留める計画」
といったような積極的な保守の考え方も必要なんではないでしょうか。
なぎらさんの「町の忘れもの」を読むと、自分もなにか、
なぎら視点になって町の中からそんな「ああ、こんなのあったあった」
といった忘れものたちを見つける、気づくことができる、
そういった町歩きの楽しみを教えてくれる良書ですよ。